第6話あたし霊能者とかちゃうし

あたし霊能者とかちゃうし



 話題と興味はいきなり切る訳にもいかない。

 切ろうとしても切れるものではなかったのです。


 今日だけで、いくつもの怪談話ができるだけの体験を済ませたメンバーを中心に、さっきのやつじゃない話。ここら辺じゃない話。と徐々に話をそらせていきます。


 それでもまだ「火事」と言うキーワードだけは、残っていました。


 あゆむが、当時まだあった”プランタン難波”での、アルバイト中に見たものの話を、始めました。


 プランタン難波といえば、その前の千日前デパート火災は有名です。

 

 戦後は焼け野原。


 江戸時代は大きな墓地でした。


 実は、今なお知る人ぞ知る心霊スポットです。


 後はプランタンの話で火事からもはなれようとしていた時、ちあきさんに異変が起こりました。



「何か真っ白! 部屋の中が真っ白!!」

「出ていってぇーっ! 来ないでっ!! 出ていってっ!」と叫びだしたのです。


 次の瞬間。


!! バン !!


 目の前で打ち上げ花火が上がったような、大きな音が、ドアの辺りから響きわたりました。


 ピンと空気が張り詰める間が一瞬あった後、

一気にエネルギーが解放されるように、


「きゃあー」

「わぁー」

「おぉー」


と、その場にいた多くの人が叫びました。


 叫んだことで逆に落ち着きを取り戻し、我に帰ったみんなは、いっせいにちあきさんの方を見ました。


 ちあきさんは、二歳になる自分の子どもを抱きかかえたまま、うつむき、

「ひっ、ひっ」

と言う感じで振るえ、引き付けを起こしているようにすら見えます。

   

 そんな中、抱えられている子供は天井を見上げ、ニコニコと笑っています。


 その目線の先には、さっき私が外に逃がした女の人が戻って来ていて、子供をあやしています。 


 あの時、望みを聞いた事で、彼女は私たちの味方として戻って来てくれていたのです。


 悪霊、日和見、味方、様々な霊が入り乱れています。


 子供が泣きださないのは、いろんな意味で助かりました。


 それでも、意識があるかどうかもわからないちあきさんを見たあゆむは、

「ちょっともうヤバイ」

「悪いけどみんな塩かぶって」

と、部屋中に塩を撒き、塩まみれになってもなお呆然とするメンバーをよそに、ちあきさんの後ろに回りました。


「ちあきさんに取り憑いたのは、さっき、ちあきさんが言ってた窓の外に居た中年男やけど、もうそれだけちゃう。そいつを中心に何体もの霊がひと塊になって戻ってきたバケモノや」


 そう言うと、あゆむはちあきさんの背中に手を当て、何かを探しています。


 あゆむは、必死に気を送り込むポイントを探し、一回目の除霊を試みました。


 あゆむが体勢を立て直していることから、一度目は失敗に終わったことが解ります。


「霊能者とかやったら、こんなん一発で決めるんやけど、あたしそんなんちゃうし」


 まわりはただ、見守ることだけしか出来ません。


 そして二回目。


 これも失敗したのがわかりました。


 一回目、二回目と、かなりの体力を消耗しているらしく、明らかに疲労していくのがわかります。


 あゆむの力では三回が限度らしく、上手くいかない焦りと、残り一回と言うプレッシャーで、不安げな表情は隠しきれません。


 ついには、

「あかん…。どぉしようー」

と言う言葉まで漏れ始めたのです。


「自分を信じろ!!」


 あゆむのことをよく知っているユウが、励ますように、叱るように檄を飛ばします。


 その言葉に励まされてか、少し気を取り直したあゆむは、それでもしんどそうに、

「これが最後の力!」

と、残りの気力を振り絞り、最後の一回に挑みました。




 直後、私には、うな垂れるちあきさんの首筋から、頭を通って抜けていく黒いもやが見えました。


「よっしゃー。今、頭から白いモンが抜けてったから、もう大丈夫や!」

 同時にユウも叫びました。


 それでもまだ、ちあきさんはぐったりとして、その場にたおれこんだままです。


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