ずっしり重いものを感じたいと思ったときに読む

表現は独特のものがありながら、その構成は読みやすく、
そして克明に描かれたシーンは本当に脅威を教えてくれた。

ただ、それをもってしても体験した人とそうではない我々との
大きく開いた隔たりが横たわり、結末を読んだ後に濁った澱の
ような、どっしりと重い名状しがたいもの、傷を残していく。

しかし、そのじくじくと痛むその名状しがたい澱は、なぜか柔
らかく温かい、言うなれば生の実感を残す気がする。

Rと主人公は、震災で大切なものをなくした人たちと、そうで
ない人たちの暗喩でもあるのかしら、と。
多くの物語を見聞きしても上辺で見てしまう私は、どうしても
そんな浅い思考になってしまう。だが、色々な情報で当時を語
る人々の話以上に、個人に降りかかった災害の恐ろしさ、悲惨
さをよく知らしめる作品になっていると思う。
第8話で避難中の描写があるが、その文章を読んでいる間中、
身体の震えが止まらなかった。肌を粟立てたのではなく、本当
に震えた。

おそろしい

ここまでの反応が出た創作は本当に初めての事だった。それく
らい、心に響く表現が多かったのだ。

ホテルマンが語る、とあるファッションホテルの一幕。
出来るなら、顔が見えない、名前を知らない相手のその一文字
を大切にくみ取りながら読んで欲しい。

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