04 決戦
「三浦が味方すると?」
北条泰家は、腹心の横溝八郎からの報告に一抹の疑念を抱いた。が、当の三浦の大多和義勝が来て、新田の尾羽打ち枯らす様に感服した云々言い出すと、それを信ずることにした。
別の腹心である安保入道の何故という視線を受け、泰家は
「何、つまるところ、勝ち馬に乗りたいのであろう」
だが配慮は必要と考えた泰家は、三浦衆を幕府軍から離れた場所に待機させることにした。
そうこうしているうちに日が暮れ、泰家は全軍に休息を命じた。
「
こうして幕府軍は、運命の日、元弘三年五月十六日の早朝を迎える。
*
馬の
「奇襲か!」
北条泰家が太刀を持って、寝所を飛び出る。
「……霧?」
深い霧。
まるでこれからの乱世を暗示するような濃霧の中で、どこからともなく刀槍の衝突音、悲鳴、断末魔が響く。
五月の早朝、多摩川には川霧が出ていた。
これが新田義貞が脇屋義助に頼んで調べさせていたことであり、それは――義貞の奇襲に最大限の効果を与えていた。
泰家の耳に、横溝八郎の声が届く。
「新田のみにあらず! 三浦の方も!」
そしてここで三浦の大多和義勝の加勢が
つまり、幕府軍は霧の中、奇襲による挟み撃ちを受けていた。それは幕府軍を、大混乱に
「何だと!」
泰家も含め、幕府軍はろくに甲冑もつけずに迎え撃つことになった。
しかし、完全に虚を突かれたかたちの幕府軍は、誰からともなく散り散りになりつつあった。
それでも泰家は抵抗しようとしたが、そこへ新田義貞が
「われこそは新田小太郎義貞! 北条泰家、いざ尋常に勝負!」
「……くっ」
もし泰家に、もう少し合戦の経験があれば、義貞の策を看破できたかもしれない。しかし、千早の戦いに参陣し、小手指原、久米川と戦い抜いてきた義貞に一日の長があった。そしてその差は、今、大きく泰家と義貞の間を隔てていた。
「お逃げを!」
横溝八郎が、義貞と泰家の間に割って入る。
「すまぬ!」
泰家はついに己の不利を悟り、全軍に
元弘三年五月十六日。
世に言う分倍河原の戦いは、新田軍の勝利に終わった。
北条泰家は霞ノ関にて最後の戦いを挑むも、撃破される。
「いざ鎌倉!」
そして元弘三年五月二十二日、新田義貞は鎌倉を
そのため、この一連の戦いをこう称する。
新田義貞の鎌倉攻め、と。
【了】
分倍河原の戦い ~新田義貞の鎌倉攻め、その決戦~ 四谷軒 @gyro
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