03 画策

 大多和義勝は、足利家執事・高師直こうのもろなおの一族の者である。

 彼は三浦の一族、大多和の養子となり、相模にて足利家の尖兵を作るべく動いていた。


 みやこ

 六波羅をおとした足利高氏は、武蔵野の新田義貞の進撃を知り、少し考えると、師直に命令を下した。

「義勝に、新田に味方せよと?」

「そうだ」

「……よろしいので?」

「構わん」

 実は大多和義勝は、きたるべきにおいて、鎌倉にとして入らせ、鎌倉内部から足利を手引きする役割を与えられていた。

 そのため、相模の名族、三浦に送り込まれていたのだ。

「新田、騎虎のごとし。鎌倉をほふれよう」

 それが高氏の評価である。そう評価した以上、賭け金は全て新田に預ける。

 後に南北朝混乱期を制し、征夷大将軍と成りおおせる高氏の真骨頂が、そこにあった。

かしこまりました」

 であれば、師直としても異存は無かった。



「――そういう、鎌倉の中から食い荒らすはず、であったのであろう」

 新田義貞は、大多和義勝のを正確に言い当てた。

おおせの通り」

 義勝はうやうやしく頷く。義貞の読みに舌を巻きながら。

 やはり、幕府軍を二度にわたり撃破するだけあって、ただ者ではない、と。

「しかし今、新田は負けた。貴殿としては相模に戻るか、北条泰家の下に馳せ参じるべきでは」

 を果たせ、と義貞は語った。

「いえ」

 義勝はかぶりを振った。

の北条泰家十万の軍こそ、幕府最後の兵。これを破らねば、勝ちはない。お分かりで?」

「まあな。相模に居座り鎌倉に籠城されたら、かなわん」

 義貞は頷く。下手に北条泰家が持久戦の構えを取れば、幕府はその命数を長らえる。この時点でまだ九州の鎮西探題が健在で、もし鎌倉が生き延びれば、東西から後醍醐天皇の朝廷を圧迫しよう。

「であれば、あの十万を撃破すれば、鎌倉は残兵わずか。つまり……」

「この分倍河原こそ、決戦の場か。面白い」

「ではぜひ三浦衆六千、お使い下され。実はまだ対岸に。急ぐあまり、ここへは私のみ……」

 そこまで義勝が言った時、義助が戻ってきた。

「兄者の読み通りだったぞ」

「そうか」

「……一体、何事で?」

 義助は、迂闊に情報を洩らすまいと構えるが、義貞にまあまあとなだめられた。

「義勝どの。この川多摩川もまた、利根川と同じということよ」

 いぶかしむ義勝。だが義貞はつづける。

「三浦衆は対岸? 重畳ちょうじょう。では遠慮なく使わせて頂こう」

 義勝は聞く。

「どのように」

 そこで義貞は破顔した。


「何、高氏どのと同じよ」

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