02 堀兼

 幕府軍の反撃は苛烈を極めた。

 だが、新田義貞は自ら殿しんがりを務めつつ、弟・脇屋義助わきやよしすけの手勢を離脱させ、幕府軍の側面から逆撃を食らわせるという策に出た。

「うぬっ」

 北条泰家はこれが初めての合戦であり、意想外の事態への対応に、戸惑いが見えた。

「よしっ、逃げろ」

 一方の義貞は、二度の合戦を経ており、この手の戦場でのやり取りは、彼にとってお手の物になっていた。

 ――新田軍は逃げに逃げ、堀兼(狭山市堀兼)まで退くことができた。


「どうするか」

 泰家は、新田が退いた結果には満足したが、今後どうするかを決めかねていた。

 追撃して、とどめを刺すか。

 それとも、分倍河原に戻って、様子見するか。

 腹心の横溝八郎が警告する。

「今、各地にて幕府への叛乱が生じております。武蔵だけではありません。お膝元、相模にても……」

 相模にて叛乱を起こされては、首府・鎌倉が危うい。

 おとされることはないにしても、糧食や財貨といった物流が止まったら、鎌倉は終わる。

 そこへ別の腹心である安保入道がやって来た。

「三浦から、六千あまりの兵の動きが」

「何」

 かつて北条をしのぐ勢威を誇った三浦。宝治合戦ほうじがっせんで嫡流は滅ぼされたものの、隠然たる勢力を保っていた。

「戻るぞ」

 泰家としては、ここで下手を打つわけにはいかない。

 幕府の命運のためと、己の野心のためにも。



 堀兼に撤退した新田義貞は、さてどうするかと考えあぐねていると、弟の義助が新たなおとないの旨を告げた。

「大多和義勝?」

「相模の三浦の者らしい」

 挙兵以来、新田軍に参陣する御家人は多い。

 しかし今、負けたばかり。

 その御家人らが、次々と逃げ出している。

 そのような中、敢えて新田軍に来るとは。

「会おう」

 義貞は立ち上がり、そして義助に頼みごとをすると、大多和義勝の待つ場所へ向かった。


 巨漢だ。

 それが義貞の抱いた、大多和義勝の外貌の感想である。

 巨漢が話す。

此度こたび馳せ参じました」

「主命?」

「はい」

 丁寧な口調で話す義勝は、主とは誰かという問いに答えた。

「足利高氏さまです」

「高氏どの? 千寿王どのではなく?」

「左様」

 高氏の嫡子・千寿王は、人質として留め置かれていた鎌倉を脱出し、今や武蔵野における倒幕軍二十万余の総帥としていただかれている。

 ただし、四歳の千寿王が率いているわけではなく、補佐役の紀五左衛門きのござえもんが取り仕切っている。

ほど

 義貞はうなずいた。

「つまりは、義勝どの、貴殿が高氏どのの、鎌倉攻めの奥の手、というわけか」

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