作家が筆を置くと自らに課したその時、ファンは一体なにができるのだろうか

 大好きな作家の世界観に浸りたくて、その地に引っ越しまでしてきてしまった、この物語の主人公・原田眞夜。

 今日は、その作家の新作を手に入れた。
 逸る気持ちを抑えきれず、近くのコーヒーショップに駆け込んだ。いざ、物語の世界へ。
 その想いに水を差すかのように、彼女のスマホが震える。友人からのメッセージだった。それをきっかけにしてたどり着いたアカウントには……、先生が筆を置く、つまり作家を辞めると書かれていた。

 物語は、緩やかに時間が流れる、地方の一都市を舞台に紡がれている。素敵な街だ。
 主人公にとっては、筆を置くことを考え直させることができるのか、緊急事態でもある。
 その差が、物語に深みを与えてるように感じるのは、わたしだけだろうか……? 最初に抱いていた説得が、次第に感謝に変わり、そして、真実を告げられ後悔に変遷していく様は、感動的でもある。

 どこかで一人でいるあなたへ……との書き出しが、物語の終盤に繋がった時、暖かい気持ちになれた。優しさとかさなった伏線だった。素敵な物語に出逢えたと、わたしは思う。

 あなたには、推し作家がいらっしゃいますか……?

その他のおすすめレビュー

浅葱 ひなさんの他のおすすめレビュー341