しあわせの三毛ねこ

 みけは、とら先生のところで勉強をして、お医者さんになりました。

 そして、とら先生と同じくらい立派なお医者さんになりました。


 それでも。

 とても重い病気の患者さんや、とても酷い怪我の患者さんを助けることはできませんでした。

 患者さんが息を引き取るとき、泣きながらみけは言いました。

「ごめんよ、ごめんよ。助けられなくて」

 みけのひげから滴り落ちる涙の雫を受けながら、ベッドの上の患者さんは笑いながら言うのでした。

「みけ先生、ありがとう」


 長い長い時が過ぎました。

 みけの美しかった三毛模様もすっかり色あせ、白髪だらけになりました。もう、みけは三毛ねこには見えません。けれども、そんなことは、ちっともみけには関係ありませんでした。


 ある日、みけは懐かしい声を聞きました。

「また逢えて嬉しいわ」

 最近、よく見えなくなってきた目をしばたかせると、お日様のような笑顔がありました。

 ふわふわの白い毛皮。綺麗な青い目。

 間違いありません。しろです。

 みけは思わず手を伸ばしました。あまりの驚きに、指先がぶるぶると震えていました。

 しろは、みけの手を取って、両手で優しく包み込みました。

「天国に来たあなたの患者さんは、みんな口をそろえて言うのよ。あなたに逢えてよかったって。あなたに逢えて幸せだったって。やっぱりあなたは、〈しあわせの三毛ねこ〉だったのね」

 みけは、ひげをぴんとさせました。

 くすぐったいような、嬉しい気持ちが溢れ出しました。

 それから、そっと、しろを抱きしめました。しろも、みけを抱きしめました。

 みけの目からは涙がこぼれて、止まりませんでした。

「ずっと君に、言いたかったことがあるんだ」


 ありがとう。

 大好きだよ。

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しあわせの三毛ねこ 月ノ瀬 静流(PC不調) @NaN

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