第15話 集められた物の感触と蒸気モンスター


「暑ぃ……山道キツイ……」



 俺たちはリブレリアから列車と馬車を駆使して移動開始、翌日お昼にやっと目的の場所付近に到着。



 『森の中のとんがった岩』で想像はしていたが、現地は森森森森……。


 当然アスファルト舗装された綺麗で平坦な道など無く、獣道以下の木と木の隙間を枝に引っかからないように歩き移動。


 観光客向けに歩道や休憩所の整備がされていない……このへんは異世界のクソな部分。


 ……いや、ここは観光地じゃないか。


 ただの、山。


 



「ふふ、楽しいですねー登山。お弁当も持ってきましたし、開けた場所でご飯にしましょう」


 グダる俺とは正反対に、ネイシアは斜度四十五度越えの上り坂にもビクともせず、ときには斜度九十度、壁と化した岩さえぐいぐい登っていくお転婆っぷり。


「……ネ、ネイシア、さ……本当にお姫様なんだよね……?」


「? ええ、そうですよ。どうしたんですかシロウ、暑さでやられて溶ける寸前の犬みたいな顔をして」


 ぜーぜー言いながら聞くが、ネイシアはケロっとした顔で応える。



 ……普通お姫様っつったら、お城でぬくぬく、それこそ箱入りで育つから体力とか無いのが普通じゃないの? 


 それなのに何なのこの無敵のアスリートっぷり。何かの世界大会を制した金メダルを何個か持ってそうな勢い。



「はは、どうしたシロウ、それでも最強の神獣召喚士か? 辛いようなら私が背負ってやろうか」


 エレンディアさんもニコニコとしていて、冗談さえ言える余裕っぷり。


 何なの……異世界の女性って体力無限回復スキルでも持ってるの……? まぁ……単に俺の運動不足なんだけども。






「どうだシロウ。ここからなら森を見渡せると思うが」


 なんとか山頂付近に到着し、森を一望出来るポイントからとんがった岩を探す。


 冒険者として世界を歩き回っていたエレンディアさんの記憶を頼りに候補を絞り、俺がピンときた場所がここ。


「…………ありました。ちょうど森の真ん中ですね」


 周囲を山に囲まれた盆地のど真ん中、そこの木の隙間からとんがった岩が見える。


 来る前に地図で見たが、なんとなく『集まっている』感じがするんだ。


 納得できるデータ? んなものは無い。勘のみ。








「うわぁ、とても大きい……自然に出来た物なのでしょうか?」


 適度に休憩を入れつつ目的地に到着。


 

 ネイシアが口をぽかんと開け岩を見上げる。


 樹齢何百年を誇る大きな木が生えている森の中にぽっかりと円形の空き地があり、そこに不自然に立つとんがった岩。


 直径は十メートルぐらいで、高さは周囲の巨大な木よりさらに大きい。


「ふむ……周囲に似たような岩は無し。崩れた岩が多量に転がっていれば、岩山のような物が地震などの影響で割れ、偶然とんがった岩が出来上がったとも考えられるが……巨大な木しかないのでは不自然とも思える」


 エレンディアさんが周りを観察し感想を言う。


 確かに森の中に突然あって不自然だが、今の俺たちは世界の不思議スポット巡りに来たのではない。


 ロクトソウル、それを探しに来たのだ。



「うーん、ただのとんがった岩ですよね……」


 岩に近付きペタペタと触るが、太陽で熱されて熱いな、ぐらいの感想しかない。


 ……しかし岩の一番上、その辺りに『歪み』みたいな物が見える。


 なんだろう、あれ……登ってみるか?




「き、気を付けてくださいねー……シロウはそれほど運動が得意そうに見えませんし……」


 岩には結構足場となる出っ張りがあったので、登るのはなんとかなりそう。


 ネイシアがすっげぇ不安そうに俺を見ている。


「よいしょ……ひぇっ……落ちたら死ぬぞ、この高さ……」


 なんとか登りきり、空間が歪んでいた辺りを見るが……なんだろう、何かがものすごい圧縮されている感じ。


「手を突っ込んで……っ! うわっ!」


「ど、どうしたのですかシロウ、急に空に手を伸ばして……無理はしないで下さい!」


 モヤっとした空間に手を突っ込むと、何か『感触』があり思わず声を出してしまった。


 この歪みは俺にしか見えていない模様。



「だ、大丈夫だネイシア……ちょっとビックリしただけだから……」


 うーん、なんというか生暖かく柔らかい……そうだな、まだ一度も触ったことは無いが、まるで女性の大きなお胸様を触っているような優しくて安心する感じ。


 ……ずっと触っていたい……そうだ、ネイシアやエレンディアさんのお胸様を想像して……


「どうしたシロウ! 顔が溶けかけているぞ、何かあるのか!?」


 ……ハッ……とんがった岩のてっぺんで何をやっているんだ俺は。


「な、なんでもないですエレンディアさん!」



 オホン……そうだ、ピヨすけを呼び出してみればこれがロクトソウルかどうか分かるんじゃ?


「おいで、ピヨすけ」


「──ピ、ピピー」


 魔力の渦を呼び出しピヨすけを呼び出すが、特に反応は無し。うーん。



「もう一回歪みに手を入れてみるか……」


 ち、違うぞ、想像の女性のお胸様の感触が恋しくなったわけではないぞ。全てはピヨすけを救うためなんだぞ。


「ちょっと両手で味わって……おお、おお……」


 これは……なんと素晴らしい……こんな森の中の空中に野生のお胸様があるとは……!


 これか、これがロクトソウルと呼ばれる男たちのパワーの源なのか……!?


 そう、こうやってこねってみると、おお、おおおお……俺ずっとここにいたい……あれ、なんかこれ『形』を作れそうじゃね?


「ピ、ピピ!」


 ん? ピヨすけが俺の揉んでいる物に反応し始めたぞ。


 



「────なんでしょう……とても大きな『黒い色』……シロウ、なにかがこちらに接近してきています!」


 空中を夢中でこねていたら、下からネイシアの危険信号が。


 ネイシアが言う『黒い』は悪いもの。


 でも、もう少しでなんか作れそうなんだよな、これ……。




「ゴァアアアアアア!」



 突如耳をつんざくような咆哮が聞こえ地面が揺れ始め、森の中に土煙が巻き起こる。


 驚き見ると、巨大な蛇のような物が地面から這い出てきている。


 樹齢数百年を超える木より高く顔を持ち上げ、大型トラックすら一口でいけそうな大きな口が開かれる。


 そこから多量の煙……蒸気が漏れ始め……なんだあれ……普通のモンスターじゃないぞ……。



「──!? まさか……蒸気モンスター!? まずいぞ、逃げるんだみんな! あんなの人間では勝ち目が無い!」


 エレンディアさんが声を荒げ、避難指示。


「シロウ、シロウ……! 早く逃げないと……あれは異常です……シロウ!」


 ネイシアも顔を青ざめ、俺に早く降りるように言ってくる。



 エレンディアさんって言ったら、この世界で最強と呼ばれる召喚士だぞ。


 そのエレンディアさんが勝ち目が無いとひと目で判断するって、相当やばい相手ってことなのか。



 ど、どうする……せっかくのお胸様感触……じゃなくて、何かこう……ここに集まっている何かを『形』に出来そうなのに……











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