第13話 ネイシア=レインシア


「うわっ、本がいっぱいある……」



 どうだろう、このストレートな発言。多分俺にしか言えないんじゃないかな。





 ──リブレリア中央図書館。



 さすがに街の本屋をいくら巡ってもそれらしい情報は得られず、ここは専門の人に聞いてみよう、と街の中心部にある巨大な図書館に来てみた。


「王都に行けばもっと大きな図書館があるのですが、リブレリアの図書館も相当な蔵書数があるんです」


 ネイシアが慣れた動きで先頭を歩き、館内地図を指す。


 外から見ても大きい建物だと思ったが、地図を見ると三階建ての相当巨大な施設だと分かる。


「はは、研究者としては心が弾む場所だ。知識の宝庫、いつか王都含め、全ての図書館の本を読んでみたいものだ」


 エレンディアさんが壁際にズラリと並ぶ巨大な本棚を眺めうっとりとしている。


 ……俺のストレートな想いはスルーされた模様。いや、当たり前だけど。





「あの、ここに生物召喚、いや神獣に関する情報が載っている本はないでしょうか。神獣のパワーの源とか、そういうやつなんですが……」


 俺は図書館のカウンターにいる『案内人』と書かれた札を胸につけた女性に聞いてみる。


「生物召喚に……神獣……ですか? ああ、確か人気の架空物語がありましたね。タイトルは『紅蓮の召喚士と蒼穹の翼』……」


 女性がニコニコと館内地図の『子供向けの読み物』の場所を指し案内しようとしてくる。


「い、いえ、作り物じゃあなくて、本物の情報が載っている本はないのかな、と……」


「本物……?」


 俺が慌てて否定すると、女性は不思議そうな顔で俺を見てくる。


 あかん、俺の言い方が悪くて欲しい情報が聞き出せない……。



「その、千年前に途絶えたという生物召喚のことを調べたいんです。聞いたところ、過去には神獣を呼び出せた召喚士がいたとか」


 ネイシアとエレンディアさんによると、千年前にはいたそうじゃないか、神獣召喚士が。


「……神獣召喚士、ですか……。確かにそういうことが書かれた本はたくさんありますが、ほとんどが架空の物語、想像で書かれたお金稼ぎ目的の物がほとんどですよ」


 女性が少し考え応えてくれた。


「俺、どうしてもその情報が欲しいんです。大事な、俺のとても大事な命を救う為に、たとえ嘘でもいいから、少しでもロクトソウルに繋がる情報が欲しいんです!」


 あ、やべ、興奮して図書館で大きな声を出してしまった。



「私からもお願いしたい。冗談ではなく、この少年は本当に大事な者の命を救おうとしているんだ」


 俺の後ろからエレンディアさんが援護をしてくれた。ありがたい、俺頭悪いから説明とか苦手で……。


「……!? も、もしかしてあなた様は雷剣召喚士エレンディア=エルン様では……! ど、どうしてエレンディア様クラスの方がリブレリアの図書館に……」


 女性がエレンディアさんを見て表情が一変。


 さすが世界最強召喚士と呼ばれるエレンディアさん、知名度が半端ねぇな。


「はは、この少年の想いに私も共感してな。神獣の情報が欲しい、この図書館で手に入る情報全てを調べたいんだ」


「その……そういう本はあるにはあるのですが、嘘や誇張が過ぎて、しかも千年も前のことなので誰も検証出来ず……。さすがに混乱を生む、という理由で一般の方の閲覧が国により規制されていたり……」


 エレンディアさんの言葉に案内の女性が言いにくそうに応える。



 混乱を生む、か。


 確かに誰も検証出来ない情報は、後の世代の想像や誇張が足され、悪い方向に突き抜けることもあるからなぁ。


 国の規制、これはだめか……。





「大丈夫です、シロウ。あなたの雇い主を誰だと思っているんですか」



 俺が暗い顔になりうつむいていると、後ろにいたネイシアが俺の肩を掴む。



「シロウは本当にピヨすけちゃんのことを大事にしています。私はシロウのその想いに応えたい。──私の権限の元、情報の開示を求めます。このリブレリア中央図書館にある神獣、及びロクトソウルに関することが載っている本の場所へ案内して下さい」


 優しく微笑んでいたネイシアが凛とした表情になり、案内の女性によく通る声で言う。


 な、なんだ、どうしたんだネイシア。


 いつものいたずらっ子のような喋りではなく、権力者が放つような強いオーラを纏ってるぞ。


 なんか圧倒されて、思わず頭を下げてしまいそう。



「──私の名はレインシア王国第三王女、ネイシア=レインシア。私にはその情報を見る資格があります」


 ネイシアが胸元に付けていたネックレスを外し、案内の女性にかざす。


「──!! こ、これはレインシア王国、王族の証……! も、申し訳ありません! い、いますぐにご案内を……!」


 それを見た女性の顔色がみるみる青くなり、焦ったように何度も頭を下げる。


 すぐに奥の方にいた図書館の責任者と警備の騎士が飛んできて、ネイシアの周囲を守るようにズラっと整列しだした。




 ……え、何……?



 レインシア王国って今俺がいる国の名前だよね?


 ネイシアの名前がネイシア=レインシア? 


 それって権力者どころか、思いっきり国の名前背負った王族様……!



 マジ……かよ……









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る