第12話 ロクトソウル探し


「ここはリブレリアという街なのですが、情報を集めるには最適だと思いますよ」




 朝食後、俺たちは街を散策しつつ、本屋さんを見かけ次第それらしい本がないか探している。


 それらしい、ってのは俺のピヨすけの命を救う『ロクトソウル』なる物の情報。





「しかし何かしらアテがないと、時間だけ無駄に浪費しそうだなぁ……」


 ネイシアが言うに、この街は昔から本屋さんが多いことが有名だそうで、街の名前の由来にもなっているそうだ。


 うーむ、元々勉強は苦手だったので、挿絵無し、字だらけの本を読むのは俺の命がゴリゴリすり減っていく……。


 いや、俺のピヨすけの為だ、頑張るぞ。


「確かにそうだな。無限とも思える在庫から、有用な情報だけを吸い上げるのは容易ではない。私も召喚士として活動しつつ、召喚というものを研究しているのだが、『ロクトソウル』という言葉は初めて聞いたな」


 何十件目かの本屋を出て、次の本屋を地図で探していたらエレンディアさんが言う。



 エレンディアさんはこの世界で最強と呼ばれるほどの召喚士。


 しかも自身の力である召喚のことをかなり調べているそうで、その彼女が知らないというのなら絶望しかないんだが……。



「シロウの使う生物召喚は千年以上も前に途絶えた、人類から一度失われた技術。私が今までどれだけ苦労して調べようが、情報の片鱗すら出てこなかったからな……。あったとしても嘘と想像と妄想で書きました、みたいな物語的な本ばかりでな」


 俺は異世界である日本から先月来たから、こっちの世界のことはよく分からない。


 現地の人間であるネイシアやエレンディアさんに頼るほかないのだが、ちょっと厳しそうか……。



 俺が呼び出すことが出来たヒヨコは実は神獣と呼ばれる存在らしく、しかもその頂点に立つ何たらの大鳳凰鳥とかいうすごいものらしい。


 しかしそのピヨすけは消滅寸前の姿だからヒヨコだそうで、早くしないと本当に消え去ってしまうとか。


 それを防ぐには先程から出ている謎の単語、『ロクトソウル』なる物が必要。


 俺が呼び出した狂戦士ディオリーゼがこれを教えてくれたのだが、肝心のロクトソウルは彼女も知らないんだと……。


 知らないというか、神獣ごとにパワーの源が違うらしく、基本的にその本人しか分からないことらしい。


 って本人から聞き出そうにも、俺のピヨすけはヒヨコ状態だから『ピ』しか喋らない……。


 どうすればいいんだよ。



 ああ、戦乙女ソシエルリーゼに狂戦士ディオリーゼは朝ご飯食べたら魔力の渦の中に引っ込んでしまった。


 召喚した二人は俺の魔力を元に活動しているらしく、あまり長時間は俺に負担がかかるんだと。


 別に今の所、俺の体に何の異変もないけど。




「……しかしシロウ、神獣を召喚した直後にこんなに動き回って平気なのか? 私の経験だが、大きな召喚をすると体の魔力が急激に減り動けなくなったり、体調に異変を感じるものなのだが……ときに命の危機すらありうるぞ」


「……? いえ、なんとも」


 エレンディアさんが心配そうに顔を覗き込んでくる。


「そうか……いや驚いた……神獣を三体も同時に呼び出したというのに、平然としているとは……。君は本当にすごいんだな、その、もしかして有名な血筋のご子息とかなのだろうか」


 有名な血筋のご子息? いえ、俺の両親は日本在住のクソ真面目な教師ですが。


「!? そうなのですかシロウ! どうりでその放つオーラが普通の人とは違うと思いました! そして名のある名家出身であれば、なおさら私と結婚しても問題ないですね!」


 満面笑顔になったネイシアがぐいっと俺の右腕に抱きついてきたが、結婚ってどっから出てきた言葉ですか。


 出会って二日目ですよ、俺たち。


 多分ネイシア流の冗談、なんだろうけど。



「い、いえ、俺はそういうのじゃないです。……そして申し訳ないのですが、俺の過去のことや出身に関してこれ以上何も言えないです」


 さすがに異世界である日本から来ました、なんて言えねぇよ。



「そうか、これは申し訳ないことをした。辛い過去を思い出させてしまったようだな……。でも大丈夫だ、これからはこの私が君の保護者となろう。もう不安な思いをすることもない。うん、その、ちょっと私の研究に生涯付き合ってくれればそれで……」


「あー! ダメですよ、シロウは私の物なのですから! ねーシロウ? 私はあなたに一万Gを渡したこと、覚えていますよねぇ?」


 エレンディアさんがちょっと怖い笑みを浮かべ、ネイシアもドス黒い笑顔で俺のポッケに入っているお金を突いてくる。



 ……うーん、異世界に来れて美女二人に挟まれている夢のような状況なんだけど、あまり嬉しさが湧いてこない……。


 内緒だけど、ちょっとだけ怖い。



 これも二人の冗談、なんだよね?









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