第3話 シロウの覚醒


「ふーん。結構苦労していたんだー。みんな見る目がないんだなぁ」



 夜十八時過ぎ、列車の駅がある隣街に行くため、暗い森を歩く。月明かりがあるのがありがたい。



 俺の隣を歩く女性ネイシアが言うに、さっきの街は『黒っぽい』人が多いから、『白い』人が多い大きな街に移動しよう、とのこと。意味は分からん。


 この森を一時間も歩けば隣街につくが、夜はさすがに移動には適さない。


 なんせここは異世界。普通にモンスターとかそのへん歩いているし。


 特に夜行性のモンスターって凶暴なのが多いんだよね……。



 俺はちょっとした炎とか風の魔法を使えるけど、この一ヶ月、どこのパーティーに入ろうがお荷物扱いだった程度のランクしか使えない。


 ──どうか強いモンスターと遭遇しませんように。




「シロウはとんでもない逸材なんだけどなぁ。なにせ、千年も前に途絶えた『生物召喚』を使える召喚士なんだよ。って、ああそうか、こういうのって国が管理している大きな図書館とかに行かないと手に入らない情報でー、普通の人は知らないかー」


 ネイシアが自分の言ったセリフにうんうん頷き一人会話。俺も混ぜて……。



 軽く俺がこの一ヶ月のパーティー追放されっぷりを語ると、ネイシアがさっきの街の冒険者たちに俺が悪い扱い受けていたことを不満そうにしている。



 生物召喚……?


 俺は先月この異世界に来て、なんとか生き残るために冒険者になって金稼ぎしかしていなかったから、正直この世界のことはまだ詳しく分からない。


 召喚士って職業が相当なレア職らしいってのは理解している。


 だって『召喚士』って名乗るだけでどこのパーティーにも笑顔で迎えられたから。


 ……まぁ、俺が呼び出せるのは超キュートなヒヨコのみで、それを見た途端パーティーメンバーの顔色が変わり、罵声を浴びせられ追い出されるの繰り返しだったけども。



「──大きくて黒い……数は九、十……十体。運が無いなぁ……って違った、運が良いなぁ私。シロウがいなかったら私、ここで死んでいたかも……」



 ネイシアがピタリと歩みを止め、右方向をじーっ見ている。え、何?



 腰に帯刀していた豪華な剣をスラリと抜き、何事か呟くと剣が輝き出す。



「隠れていないで出てきなさい! 狼ども!」


 剣から眩しい光弾が放たれ、森の木々の間をまっすぐ進み周囲を照らしていく。


「オオオオオン!」


 二百メートルぐらい先に反応。


 ガサガサっと小さい黒い物が左右に散り、一番大きな黒い影がゆっくりこちらに歩いてくる。


 なんだ……? 



「ふふ、さぁやっちゃいましょうシロウ! あなたの最強召喚士への道はここから始まるのよ!」


 ネイシアが剣を構え言うが、その先に現れたのは巨大……本当に大きい、大型トラック並みの巨大狼。


 ってこいつ、さっき勇者アルコとかとダンジョンに潜ったときに遭遇したやつじゃん。


 俺の魔法なんてまったく効かず、勇者たちが毒やら目くらましやらを駆使してなんとか一体倒せたやつだぞ。それが十体もいるのか? 無理……それアカンやつだって!



 ん? よく見ると背中辺りに折れた剣が刺さっている。


 ここに来る前に誰かを襲ってきたってやつか。



「む、無理だネイシア! 逃げよう!」


「……無駄よ。もうとっくに囲まれている。でもおかしいわね、こいつらって目標定めたら次の瞬間、集団で襲ってくるはずなんだけど……リーダーのこいつ以外、怯えたように近付いてこないわ」


 怯え? とにかく今はこいつ一匹に集中すればいいんだな?


 やるしか……ない!


「ほ、炎の矢!」


 俺は魔力を込め炎を放つ。


 見事に巨大狼の顔にヒットするが、かすり傷程度。狼はピクリとも反応しない。


「うわ、やっぱダメだ……俺なんかじゃ……」



 蘇るこの一ヶ月の記憶。


 俺が魔法を放つも全く効かなくて、周りのメンバーが頑張ってなんとか敵を撃破。そして俺は「使えない、帰れ、期待して損した」等の罵声を浴び、パーティーを追放される。


 思い出すのも嫌な、自分の力の無さを痛感する記憶。


 俺は全く戦力にならなかったが、パーティーメンバーの頑張りで敵を倒せ、こうして俺は今も生きている。


 だが今は状況が違う。


 

「きゃああ……! ううっ、シロウ……!」


 巨大狼がネイシアに狙いを定め、丸太みたいな右手を振り抜く。


 体重の軽い彼女は簡単に宙に浮き、近くの大木に叩きつけられる。



「ネイシア! く、くそ……!」


 勇者と呼ばれるアルコですら数人がかりでなんとか倒せていた相手。それを俺たち二人でどうにかしないと生き残れない。


 でもどうする……魔法なんて全く効かないし、体術で倒せるような技術も俺には無い。


 巨大狼がネイシアに止めを刺そうと近付いていく。まずい……!



「させるか……!」


 俺はネイシアの前に立ち、巨大狼を睨む。


「シロウ、召喚! あなたの声を、あなたに呼ばれるのをずっと待っている存在がいるはず、呼んであげて……それがあなたの……シロウだけが使える千年前に途絶えた技術、生物召喚なのよ!」



 今の俺に出来ること……? 俺の声に応えてくれる存在なんてヒヨコだけだぞ。


 それでどうやってコイツを倒せっていうんだ。



「わ、分かったよ……! やるしかない! 出でよ……ピヨすけー!」


 魔力の渦を生み出し、俺は一匹のヒヨコを召喚。


「ピ……ピ?」


 俺の目の前に現れた、けがれを知らない無垢なヒヨコ。うん可愛い、俺のピヨすけはいついかなるときも可愛い。


 ──以上。




「グルル……!」


 俺の攻撃っぽい動きに少し距離を取った巨大狼だったが、現れたのがヒヨコだと分かり一気に襲いかかってくる。や、やっぱアカーン!


「ピ、ピピー!」


 巨大狼の右手がピヨすけに狙いを定めた。くそ……! 


 わけも分からず異世界に来てしまった俺の心をずっと支えてくれたピヨすけ。


 ……俺の可愛いピヨすけをやらせるもんかよ!


「オオオオン!!」


「っぐはぁああ……」


 ピヨすけをかばい、巨大狼の右手の攻撃をまともに食らった俺の体は宙を浮き、次の瞬間地面に叩きつけられる。


 い、いてぇ……完全に爪で脇腹えぐられて……吹き飛んだか……? 



「あ、あれ、服は吹き飛んで行ったみたいだけど、血もそんなに出ていないし、痛みも引いてきた」


 俺は慌てて傷口を見るが、かすり傷程度の跡しかない。おかしいな、完全に爪が腹を貫通した感じがあったんだが。


 そういえば以前も大怪我したけど、すぐに治ったんだよな……。


 なんだろう、この体の内部から湧き出るあたたかい炎みたいなやつは。自動回復……?


 

「ピ! ピピー!」



 それを見たピヨすけが狼に対してプンプン怒り、体からプシュープシューと火を出している。


 ……なんだ、あれ……。



「違う、違うよシロウ! その子はまだ、ううん、その子もずっとシロウに呼ばれるのを待っているんだけど、まだ早いの! 今はその子じゃなくて、シロウの両手にいる子、その子たちを呼んであげて!」


 ネイシアがダメージが残る体でフラフラと立ち上がり、再度剣に魔力を込め、輝きの光弾を巨大狼の目にぶつける。


「ギャオオオオ……!」


 狼が視力を失い暴れる。


 チャンス、チャンスだが……俺の両手? 


 確かに俺の左右の手首には異世界に来たときの特典なのか、いつのまにか付いていた腕輪があるが……これがなんだっていうんだ?


 呼ぶ? 名前……



 自分の両手首に付いている腕輪を見ると、なにやら小さな光が漏れ始めていて、文字が読み取れる。


 ──ソシエル……リーゼ


 ──ディオリーゼ…… 



 二つの腕輪に刻まれた文字を心の中で読み上げると、体が揺さぶられるほどのパワーが俺に伝わってくる。


 召喚……これは俺の召喚に応じてくれるってサイン……!


 


「やってやる……俺はネイシアを守り、ピヨすけを守る! それすら出来ないんじゃ……異世界に来た意味がない! 頼む、俺の声に応じてくれ……! 出でよ『ソシエルリーゼ』『ディオリーゼ』!!」



 腕を目一杯伸ばし、魔力を集中。


 俺の前に二つの大きな渦が出来上がり、その中から光に包まれた人影が現れる。



「我が名は『戦乙女ソシエルリーゼ』。王の声に応じ、王の願いを叶える槍となろう!」


「私は『狂戦士ディオリーゼ』ですぅ。ちょっと遅くないですかねぇ呼び出すの。ずーーーっと待っていたんですよ?」



 俺の声に応じ現れてくれたのは、白い鎧を纏い、背中に美しい大きな翼を生やした槍を持つ女性。


 さらに黒い重そうな鎧を纏い、これまた重そうな巨大剣を持った女性。



 こ、これが俺の召喚士としての力……!







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