第2話 シロウ、ネイシアと出会う


「だから俺、召喚士っていっても本当にヒヨコしか呼べなくて、魔法だって中途半端で……」



「あー、もしかして私が子供に見えているんでしょ。子供相手じゃお金にならなそうだし面倒そうだからって適当な理由つけて断ろうとしているんだ」



 さっき俺はこの地方じゃ有名らしい勇者パーティーから強引に追放され、金目の物を全て奪われた。


 殴る蹴るの暴行を受け、数時間たってやっと痛みが引いたので立ち上がり両手に魔力を込める。


 体の痛みはどうしようもないが、心の癒やしが欲しいと俺の召喚士としての才能をフルに発揮しマイヒヨコを呼び出し癒やしワールドに浸っていたら、背後から女性に呼び止められた。


 護衛をして欲しい、と。



 パーティーを組もうと誘うわけじゃあなく、護衛ね……。


 派手なピンクの色メガネをかけた女性、多分歳は俺と同じ十六歳ぐらいだろう、と思う。


 冒険者なのだろうが、かなりお金をかけた装備を纏っている。


 豪華な装飾入りの銀の鎧だったり、腰にある剣も持ち手に宝石やらが埋め込まれていたり。


 俺は先月日本からこの異世界に来たから、この世界の常識的なものにはまだ疎い。


 ……でも十六歳っつったらまだ駆け出しの冒険者で、お金だってそう持っていないだろう。装備だって不十分なはず。


 なのにこの装備の充実度。


 比較で言うと、さっきパーティー組んでた勇者君より良い装備。もちろん俺よりも。


 親がお金持ちとかだろうか。




「いや、そうじゃなくて、俺は本当に弱くてさっき勇者パーティーを追放されたばっかで、確かに俺は召喚士なんだけど、世間一般の方がイメージするようなゴーレムとか隕石を呼び出せるわけじゃなくて……」


「ね、さっきのヒヨコちゃん、もう一回見せてもらえない?」


 どうにも召喚士って肩書きだけで実力以上に見られているようなので、必死に説明をする。


 さっきの勇者パーティーのように期待からの幻滅追放の流れは、一日に一回が耐えられる限度。


 ……が、女性は俺の話も聞かずニコニコと笑いワンモアヒヨコ。


「え、あ、それはいいけど……」


 初対面なのに物怖じしない女性の勢いに負け、俺は渋々とマイヒヨコを呼び出す。


「……ピ、ピピ?」


「うわっはー! かっわいいー! ほら、やっぱりあなたはすごい人だ。そしてとても『良い色』をしているの」


 魔力の渦から元気よく飛び出してきたマイヒヨコ。


 だがいきなり見慣れない満面笑顔の女性に頭を撫でられ困惑している様子。


 はて、ゴーレムや隕石のような攻撃能力の一切ないヒヨコを呼び出すことのどこがすごいというのか。


 この世界には超有名な最強と呼ばれるSランク召喚士様がいて、その人は雷を纏った剣を数百本呼び出し操るらしいぞ。もはやゲームの世界。


 同じ召喚士らしい俺は、この一ヶ月、どのパーティーに入ろうがヒヨコ召喚に落胆され追い出された記憶しかない。


 ネイシアが言うヒヨコさん可愛い、には完全同意だが。



「良い色……?」


「ふふ、そう『良い色』。私はネイシア。あなたのお名前と年齢は?」


「あ、俺はシロウ。歳は十六だけど」


 ネイシアと名乗った女性がピンクの色メガネをずらし、俺の体を確認するように見てくる。


「十六!? なーんだ、落ち着いた感じだから年上かと思った。私と同い年じゃない。じゃあこれからよろしくね、将来私の横で『最強の召喚士』と歴史に名を残すだろう、シロウ君?」


 ネイシアが最高に面白いものを見つけた子供のように楽しそうに微笑み、握手を求めてくる。


 うーん……正直この子、すっげぇ美人さんなんだよね……特に目が綺麗。


 握手券はこの異世界に持ち込めなかったが、券も持たずに美人さんと握手出来るなら……


「……よろしく……」


「はい、契約成立ー! これであなたは一生私を護る騎士、ね!」


 俺が出された手に反応してちょっと右手を動かしたら、ネイシアが俺の手を強引につかみ満面の笑顔。


 け、契約……? ……し、しまった……! 美人さんの手につい油断した……! 俺、つられて『よろしく』とか言ってるし……。


「…………は? い、一生!? この握手は奴隷契約の儀式か何かなのか!?」


「あはは、奴隷とか飛躍しすぎー。あ、それともシロウはそういう属性が好みなの? じゃあ鞭とか買ってこなきゃ、あはは!」


 俺が目を白黒させていると、ネイシアがゲラゲラと笑い、鞭を振る動作をする。


 うーん、この女性、面白いかも。



「……でもゴメン。俺は君を護ることはできない。俺の召喚士としての肩書きが欲しいんだろうけど、見ての通り、俺は最強とか呼ばれるような男じゃ……」


「はい、とりあえず一万Gね。私、銀行からいくらでも引き出せるから」


 申し訳ないが、俺は最強とか呼ばれるに値しない男だ。


 まだ他の召喚士とやらに直で会ったことはないが、多分その中では最弱の部類に入ると思う。だって呼び出せるのがヒヨコなんだぜ……? 


 ファンシー部門大会があればぶっちぎりで一位だろうけど。


 ……とか思っていたら俺の手にずっしりと重い布袋が置かれる。


 え、なにこれ……ひぇっ、マジで一万G、日本感覚だと百万円入ってんぞ……。


 すげぇ……この一ヶ月で俺が稼いだ数倍のお金がここに……!


 これがあればもう野宿しなくて済むのか? ご飯もおかわり出来るのか? ああ、ゆ、夢が膨らむぅぅ……。



「シロウの格好を見るに、お金に苦労しているんでしょ。ああ、ごめんね値踏みするようなことしちゃって。シロウにはこのお金以上の価値があると思う。どうかな、私、人を見る目には自信あるんだけど」


 ふ……俺を舐めてもらっては困る。


 最弱とはいえ俺も召喚士の端くれ。強い力にはそれなりの責任が生じるもの。お金でホイホイと召喚士としての力を使うわけにはいかないんだ。


 武士は食わねど高楊枝、俺にだってプライドってものがある。


 だから俺はこう言ってやった──



「犬とお呼びくださいお嬢様! このシロウ=ナツキ、今日からネイシア様の手となり足となり召喚士としての力を使うことをお約束します!」



 今から名言を言うが、背に腹は変えられぬ……十六歳に百万円、それは心を動かせる大金なんだ──








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