第10話 柔みサンドとピヨすけの命

「いただきまーす」


 宿の食堂で朝食をいただく。



 出てきたのはパン、卵を溶いたスープ、何かのお肉に数種類の果物が盛られたお皿。俺がこの一ヶ月食べてきたどの朝ご飯よりも豪華……。


 俺はマジでお金がなくて、朝ご飯なんて無いのが当たり前、あったとしても固いパン一個とかそんなだったしなぁ。



「おっいしー。私どうしても果物が欲しくて、追加料金払ってお願いして正解でした」


 ネイシアが美味しそうにバナナやらオレンジやらをひょいひょい頬張り満足顔。


 ああ、ここの宿代はネイシアが全部出してくれた。


 俺にポンと一万G、日本感覚百万円を出してくれたり、ネイシアって何者なのか。



「うん、果物は美容にいいですからな。どうしたシロウ、君もしっかり食べなさい」


 エレンディアさんがリンゴを俺の口元に持ってくる。うむむ、うん、美味しいです。


「ピピー」


 テーブルの上で俺のパンを突っつき、刻まれた葉物野菜を食べるヒヨコことピヨすけ。


「王よ、この紅茶というものをおかわりしてもよいだろうか」


「んんーおっいしー。シロウのおごりケーキ最高ー」


 正面に座っている女性二人は俺が呼び出した神獣と呼ばれる存在らしいが、こんな普通にご飯食べるんだね。


 ソシエルリーゼの飲んでいる紅茶とディオリーゼの食べているケーキは別に注文した。これは宿泊コースのセット外なので俺の支払い案件。


 鎧などは脱いでもらい、ソシエルリーゼの大きな羽は魔力で作り出された物らしく、消すことも可能らしいので消してもらった。まぁ、目立つしね……。



「…………」


「ん、どうしましたシロウ? ぼーっと私たちを見て」


 俺が楽しそうに朝食を囲む女性陣を見ていたら、ネイシアが不思議そうに俺の顔を覗き込んできた。


「あ、いや……なんかこういう平和なご飯って久しぶりだなって」


 異世界に来て一ヶ月、俺はお金もなく、召喚士としての力もなかったので、それはまぁ不遇な扱いを受けていたから……こうやって楽しくご飯を囲むなんて初めてのことなんだよね。


 しかもこんなお美しい女性陣とご一緒出来るとか、夢みたいっすわ。


「うっふふぅ、シロウちゃんお金無くてずーっと酷い生活してたからねー。さっさと私たちを呼んでくれればよかったのにぃ。ほーら、もう大丈夫でしゅよーたーっぷり甘えていいんでしゅよーっと」


 黒いシャツ一枚姿のディオリーゼがニヤニヤと笑い、その大きなお胸様を左側から俺の顔に押し当ててくる。


 ぐ……これでは動けない……しかしネイシアがすっげぇキッツイ視線を俺に向けて来ている……ああでもこの柔みを振りほどく勇気が今の俺には不足気味……!


「王はずっと耐えていました。嘆くことなく、逃げ出すことなく、不条理に向けられた暴力にも耐え……どんなに傷つこうが立ち上がり諦めずに前へ進んだ。その姿勢をずっと見ていました。暗い闇の中にいようが、決して未来という光を見失わなかった。あなたこそ我が王にふさわしい……さぁ王よ、夜にお一人でしていた慰めをお手伝いしますので、今日からは遠慮なく我に……」


 白いシャツ一枚姿のソシエルリーゼも俺の顔にお胸様を右側から押し付けてくる。


 ホァァア……! なんだこれ、なんだこの柔みのエデンサンドは……!


 これが異世界……これが噂の異世界というものなのか!



 ……というかソシエルリーゼさん、俺の夜の慰みのお手伝いとか言った? え、どういうこと、俺の毎日のアレ、見られていたの? 


 以前黒いほう、ディオリーゼも見ていたふうに言っていたし……。


 そういや両腕に腕輪付けたまましていたような。



「……っ! シロウ、雇い主として命令です。今すぐ私の肩を揉みなさい!」


 ガタンと勢いよく立ち上がったネイシアが怒り顔で自分の肩をポンポン叩き催促。


 や、やべぇ、なんか知らんがネイシア怒ってる……。


「い、今すぐ……!!」


 俺は四つの柔みの引力から最大噴射で逃れ、残像の見える速度でネイシアの背後に周り優しく肩を揉みほぐす。


「……ふふ、それで良いのですシロウ。あなたは私の物、そうですよね?」


 よかった、ネイシアがニッコリ笑顔に戻った……。


 俺は一万G、日本感覚百万円で雇われている状況だしな、そのお金の価値分の義務は果たさねばならん。



「…………ふぅーん、私のシロウちゃんを顎で使うとか命知らずな人間ー。やっちゃう? ソシエルー」


「待てディオリーゼ、王の命令が無い。無用な殺生は王の望みではないだろう」


 ディオリーゼが黒いオーラを放ちネイシアを睨むが、ソシエルリーゼがそれを止める。


 ちょ、ディオリーゼさんは結構おっかない人なのか……。まぁ『狂戦士』とか名乗っているしな……。




「ちぇー……。ああ、そうそうシロウちゃん。なんだかのんびりしてるけどさー鳳凰様、そのヒヨコの命はあと十一ヶ月しかないんだから、早くロクトソウルを与えないと死んじゃうよー」



 …………え、おいディオリーゼ……今、なんつった……?


 俺のピヨすけの命があと十一ヶ月? 


 嘘……だよな?





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