第7話 雷剣エレンディア


「私は召喚士、エレンディア=エルンと言う。そうだな、雷剣エレンディアと言えば説明が早いだろうか」



 暗闇から現れた女性がそう名乗り微笑む。




「え、雷剣エレンディアって……世界最強の召喚士と言われているあの……? 確かに見覚えのある顔かしら……」


 隣のネイシアが驚き、目を見開く。



「覚えていていただき光栄ですネイシア様。……と、今は訳ありでしたね。まずは狼に襲われている状況に遭遇しながら助けに入らなかったことをお詫びいたします」


 エレンディアと名乗る女性が身を正し、ネイシアと俺に向かい丁寧に頭を下げる。



 雷剣エレンディア、異世界に来て一ヶ月ちょいの俺でも知っているぐらいの超有名人だぞ、この人。


 その名の通り、雷を纏った剣を数百本呼び出し操る召喚士とか。


 世界最強とまで呼ばれているほどの人物。


 そんな人がなんでこんな田舎の森の中にいるんだ。




「い、いえ、私にはシロウがいましたから……。しかし王都にいるはずのあなたがなぜこのような外れの森に……?」


 ネイシアが俺の腕を軽くつまみ、エレンディアさんに質問をする。



「……一ヶ月ほど前からでしょうか、とある噂が私の耳に入ってきたのです」


 頭を上げ、俺をじーっと見ながらエレンディアさんが静かに語る。


「噂というものは、たいてい嘘や誇張が含まれ広まり、末端に行けば行くほど元の噂の原型もないほどに変化していくもの。……ですが例えそれが嘘だろうと、召喚士としてこの噂は放っておけなかったのです。空振りでもいい、でももし、本当にいるのなら見てみたい。そう、千年以上前に途絶えたという『生物召喚』を」



 生物召喚? 


 一ヶ月前ってぇと、俺がこの異世界に来たあたりか。


 何度もヒヨコを呼び出していたけど、もしかして俺って結構有名人だった?



「アクロスの街あたりにその『人物』がいると聞き、私は王都でのお仕事を全てキャンセルし飛んできました。着いたのは先程、森で狼に襲われていた女性を助け、逃げた狼を追跡していたら、その倒しそこねた狼に襲われているお二人をみつけたのです」


 女性を助けた?


 そういやさっきの巨大狼の背中には剣が刺さっていたな。やはりアレは戦いの跡だったのか。女性が助かったのならなにより。


「これはすぐに助けなくては、と思い剣を抜いたのですが、私は一人の少年の戦いに目を奪われてしまった」


 エレンディアさんが俺に一歩、また一歩と近付き、なんだか顔が紅潮していく。



「その少年が見せてくれたのは、小さなヒヨコの召喚。それを見た瞬間、私はお店のガラスの向こうに並ぶおもちゃを憧れの目で見る子供のように興奮し、動けなくなってしまって……」


 俺がその迫力に負け一歩下がると、エレンディアさんが逃すまいと一歩近付く。


 え、何怖いと一歩下がると、エレンディアさんが大股で一歩近付いてくる。


「そうしたら次の瞬間、少年がさらにご褒美だと私に見せてくれたのが『神獣召喚』……! 戦乙女に狂戦士……生物召喚だけでもすごいのに、ヒヨコを含め神獣クラスの召喚を三体同時に……! これはすごい! この少年の内在魔力は一体どうなっているのか……千年以上前に途絶えたものをどうやって復活させたのか、もう私は興奮が抑えきれなくて……!」


 俺が一気に十歩ほど後方に下がると、エレンディアさんが大股五歩で追いつき俺を壁ドンならぬ、木ドンをかましてくる。


 え、怖い怖い! 


 さっきまでキリッとしたすました美人顔だったのに、興奮してとろけたような顔でヨダレ出てるんですけど……!



「な、なぁ少年……年上のお姉さんなんて好きじゃないかな……? 君ぐらいの年頃なら女性の裸に興味があるだろ? いいよ、見せてあげる……でも代わりに君を裸にひん剥いて頭の先から足先まで全てをくまなく調べさせて……! なぜ生物召喚は千年前に途絶えてしまったのか、そしてなぜ君はそれを使えるのか、調べたい……調べたい研究研究研究分解研究研究ぅぅ……!!」


 エレンディアさんが自らの胸元をぐいっと広げて見せてくれたのは嬉しいのだが、最後漢字の連続セリフに紛れて、斜め読みだと気付かないレベルで『分解』って一回言わなかった? 


 美人のお姉さんに言い寄られるとかザ・異世界、まさに夢みたいな状況だけど、頭のネジが一本飛んだみたいな大興奮状態で分解とか言われたら、恐怖しか感じないんですが……!


 た、助け……



「……それ以上はシロウの雇い主であるこの私の許可を取ってから、です」



 俺とエレンディアさんの間に光る剣が差し込まれる。


 驚き見ると、ネイシアが顔はニコニコとはしているものの、ちょっと怒ったふうにエレンディアさんを睨んでいる。



 た、助かった……。








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