甘い痛みと苦い悦びが織りなすボーイミーツガールストーリー……

 読者諸兄姉の諸君はビールを嗜まれるだろうか。
 中にはビール特有の苦みが苦手、と云う方もおられるかも知れない。
 しかし心配は御無用。
 フルーツビールなるモノがある。
※日本では酒税法の関係で発泡酒、その他の発泡性酒類(第三のビール)に分類される事がある。
 御了承頂きたい。

 フルーツビールとは、麦芽やホップといった本来の原料に果物の果汁や表皮、フルーツシロップなどを加えて醸造されるビールの事だ。
 ほのかなフルーツの香りと甘味が特徴的で、普通のビールは飲めないがコレなら大丈夫と云う方も多い。

 今回御紹介するのは、まさにフルーツビールの様な作品である。

 作品の舞台は神々と人間が共に暮らす世界。
 神々が住まう都市『ヘヴン』からは、絶えず廃棄物が垂れ流されていた。
 その汚物にまみれたゴミ捨て場『インフェルノ』に、一柱の豊穣神が迷い出る所から物語が始まる。

 物語の筋道は解り易いボーイミーツガール路線なので戸惑う事は無いだろう。
 メインキャラクターが織りなす淡い恋愛(未満)模様が本作の甘さと云える。
 だが本作はあくまでもフルーツビールである。
 どれだけ甘かろうとも苦みは切り離せない。
 そしてその苦味こそが、本作を佳品に押し上げていると言っても過言ではない。

 その苦味とは独創的な世界観、作中キャラクターの生い立ち、壮大な伏線が張られた筋書きなのであるが、最も苦味たらしめている要素は【描写】であろう。
 描写が余りにも美しいのである。

 本作には難読漢字や俳句の季語がふんだんに使われており、理解には一苦労するかも知れない。
 しかし理解した者は発見する筈だ。
 作者の意図するモノを。
 その様はまるで、流麗に流れる地文を水、精緻に配置されたサビ文を石として構成した川である。
 その川の味わいを知った時、読者は自然と苦味を受け入れているだろう。

 才気が一目で判る酒色に、たゆまぬ尽力の泡で蓋をした今作。
 未だその味わいを御存じ無いのならば、一度味わってみてはいかがだろうか。


 今日は久方振りにフルーツビールでも飲もう。
 フレーバーは矢張り、今作にちなんでザクロとイチジクが良いだろうな……。

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