天才。

読後、息をついてしばらく放心した。
ライトノベルのような顔をした、素晴らしく純度の高い純文学がそこにあったから。

作者のバランス感覚は天才だ。
ギャグ要素を多分に含んだキャラクター文芸を装いながら、創作とは何かの核心に切り込んでくる。

「独創的すぎたら誰にも分かってもらえなくて、共感できすぎたら凡庸だって埋もれちゃう。芸術ってそもそも矛盾してると思うんだ」

あまりにも自然に散りばめられたメッセージたちに初読の私たちは気付けない。
でも読後の心に残るのは、作者が意図して配置したその一文の苦しいまでの切実さと鮮やかさなのだ。

この作品が意図して装う凡庸さ。
その中に潜む、素晴らしく難解で美しい独創性に、私は気付けているだろうか。
気付けているといい。

「込めた思いが届かないのが、一番寂しいんだよ」
その寂しさを、創作者の私は本当によく知っているはずだから。

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