持っていたはずのものを失くしてしまったら、手のひらの中には何も残らないのか。それとも漠然とした何かは、いつまでも残って消えてはくれないのか。忘れることとおぼえていること、いったいどちらが幸せで、正しいことなのか。月と夢、幻想的なモチーフを巧みに使って、生きることの本質へ切り込む完成度の高い作品です。
なにかを失ってしまったことを、地団駄踏んで恨んだり、嘆いたり、そういう強い感情じゃなく、失くなったことにも気づかないで、ただ得体の知れない欠落感をどこかにちいさく感じて、忘れていく。それってたぶんあることなんですよね(覚えてないけど)。そういう明文化できない感覚を、「月を売る」というアイディアにうまく集約した、とても巧みな作品です。
綺麗な情景が浮かんで、心が落ち着きます。眠る前のお供にどうぞ。