グロテスクでもあるし、ファンタスティックでもある

 上質のホラーには、湿気が漂うものだ。
 それが、パニック物とは類を異にするジャパニーズテイストのホラーならば、尚のこと、ぬめりを帯びた湿気をまとわりつけてくる。
 やはり、水と血は欠かせない描写だ。

 タイトルでもあるモスキート――――寄生し、吸血され、病原体を媒介する蚊をモチーフとした表現は、グロテスクでもあるし、ファンタスティックでもある。

 弱者の脅迫、という立場からの、抗えないしがらみに囚われていく主人公『田口道子』。
 人として医師として道を外れてしまった道子の追い詰められていく狂気から、芽吹き、花開くかのように凄惨な殺意のシーンは、パニックムービーにも引けを取らないショッキングさ。

 感情移入しながら読むタイプの私としては、なかなかくる絶望感であった。

 不快で不可解な主要登場人物たち、その謎や今後は残されたまま。
 プロローグとしても、ひとつの作品としても結ばれており。『成滝律』なる新たな登場人物によって、次エピソードの長編への媒介となっている。

 肌をざわつかせ、鼓膜に残響する余韻――モスキート音――もまた、上質のホラーには漂うものだ。

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