虫と、狂気と、血の匂い
- ★★★ Excellent!!!
好きこのんで蚊を家に入れる者はいない。血を吸われるのは嫌だし、痒いし、鬱陶しいし。
しかし奴らはあの手この手で入り込もうとする。一瞬だけ開けた扉から、ほんの僅かな窓の隙間から。
ときどき、人間にもこういう者がいるのだ。親切心、ほんの少しの弱み、そういった「心の隙間」をこじ開けて、奴らは我々のテリトリーに遠慮なく入り込む。そして大切なものを次々に奪っていく。
異常心理が巻き起こす恐怖を、蚊に仮託して描いたサスペンス。
妊婦、産婦人科といった一見喜ばしい要素がたくさん登場するのに、なぜだか不吉で嫌悪感を催させる手腕がすばらしい。
怪物と戦う者は怪物になるしかない。
蚊を思い切り叩きつぶした手の平。そこが真っ赤な血でべっとり濡れていることに気づいたとき、人の心は音をたてて破裂するのだ。