終夜急行に想いを載せて

夜間の列車にふと迷い込む。乗った記憶のない列車で、見知らぬ車掌から切符を確認される……。
こう聞くと、わたしたちは即座にホラーを思い浮かべるのではないだろうか。走行する列車からは降りられない。これは監禁のモチーフとセットだから。

でも、わたしたちが監禁されているのは、列車だとは限らない。わたしたちは、わたしたちの想いの殻に閉じ込められていることが非常に多い。そこから一歩踏み出す勇気を抱くことがどれほど難しいことか。
その点、列車はわたしたちの想いを載せて、自分自身の足では届かぬところまでその身体を届けてくれる。それは、わたしたちの想いの殻を打ち壊してくれることかもしれない。

この作品は、そんな夢想を現実化した物語だ。

「ある男が夢の中で楽園を通り過ぎる。男はその魂がたしかにそこに行ったというしるしに、一本の花を授けられる。男は目を醒まして、手の中にその花を見る ── ああ、もしそんなことが起こったとしたら!」

これはイギリスの詩人コウルリッジの文章だが、これの現代的な変奏がこの作品であるともいえるだろう。

失恋経由○○行き。
その意味を主人公とともに受けとめたい、そんな作品。

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