第82話 メイド長と婚約者3
「何を根拠に…」
「…何が違うって、筆跡よ。」
「貴女にそんなもの解るわけがないでしょう。」
「用紙の全ての字を判断しろと言われれば難しいけれど、そこに書かれている伯爵のサインを見ればわかるわ。サインだけは絶対他の人に書かせたりしない。本人が見れば一目瞭然よ。」
はじめからこの用紙が本物なら、偽造のサインなんて必要ない。
エイダ本人が何も知らないなんて事もあり得ない。受取書を伯爵に渡すのはエイダなんだから…。
「貴女はこれを見せても驚かなかった。この存在を知ってるかどうか、私はそれを試したのよ。」
筆跡…前に受取の控えを2枚持って帰った。その時気付いたのよ。
残り2人の男は、エイダが口を割れば解るよね。
「明日伯爵の所へ行くわ。その時までに私に勝つ算段、…この先をどうするか決めるといいわ。…あと、お金は全額置いていきなさい。」
エイダは青ざめて帰っていった。
「ニナ…」
院長には言わなきゃね…。
「私はラドクリフ伯爵のご子息、マール君の教育係をしています。理由があってここに逃げ込んで来たのですが、帰る時が来てしまいました。」
「……」
「私が教育係である事は、皆に言わないで下さい。」
「ああ、わかった。それにしても、さっきは格好よかったよ。」
院長にクスクス笑われた。
「そうでしょうか…」
可愛げがないとも言えるけど…。
「あっ!休憩っ!院長、休憩です!お茶を入れるの手伝ってください!」
「え?ああ…」
「私は皆を呼んでくるので!」
バタバタと駆けているニナを見て
「強い…」
と、院長は呟いた。
その日の夕食。
またパンとスープだけだったけれど、今月からは以前のように色々食べられるよね。
「皆、聞いてほしい事があるの。」
「なーにー?」
「おかわりか?」
皆クスクス笑いながら話している。これを言うのはとても辛い。
「明日、ここを出る事になったの。」
「……」
「……何で?」
「オレたちのことキライになったのか?」
楽しそうに食事をしていたのに、みんなの会話が止まってしまった。
「そうじゃないの。」
「イヤ!ずっとここにいてよ!」
「勉強も、もっと教えてよ。」
「そうだよ!変な奴からだって皆でまもるから。」
「ありがとう。けど絶対また来るから、そんな悲しい顔はしなくていいのよ。」
「ぜったい?…ほんとう?」
「ええ、何があったって来るわよ。」
そのうち脱走するつもりだしね!
この子達もだけど、マール君の事が気になって仕方ないし、1度帰らないと!
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