第4話 会いに来ない王子4

水もパンもタオルも買えたし、他は雨が上がってからね。必要最低限の物以外は買わないようにしないと!


「寒い…」


早く体を暖めないと…でもどうやって…?お湯だって私1人じゃどうにも出来ない。今の状態から早く抜け出さないと、生きていけないわ。

本格的に仕事探さなきゃ!


「…ん?」


雨で視界が悪くて気がつかなかったけど、10メートルくらい先に男の子がいる。まだ5才くらいだと思うんだけど、このどしゃ降りの中、レインコートも着ていない。まわりを見ても親らしい人は見当たらないし、迷子?


「ねえ?君は1人なの?」

「……」

「迷子になったのかな?」

「……」


…どうしよう…全然喋らないよ。


「お父さんやお母さんと一緒に来たのかな?」

「………」


全く反応ないんだけど!

どうしようかな。

ここに置いておくわけにもいかないよね。この辺の子かな?身なりは綺麗だから、お金持ちの子っぽいのよね。けど商人の子って感じではないし。


「君、お名前は?」

「………」


これは1人で解決は無理だわ。

ここからなら質屋が1番近いし、お兄さんに聞いてみよう。


「はい、手を繋ごうね」


私が手をだすと、最初は迷っていたけどキュっと繋いでくれた。

一歩前進!


「はい、これで顔を拭いて。」

 

男の子は私の顔を見て、それからタオルを見て、また私の顔を見た。これは可愛い…。


「いいよ、あげる」


私が笑って言うと男の子はコクンと頷いた。


「すみませーん。」

「いらっしゃい、あぁ君は3日ほど前に来たお嬢さん。」

「ごめんなさい。今日は売りに来た訳じゃないの。この子がどこの子なのか知りませんか?」


男の子はお兄さんを見ると、すぐに私の後ろに隠れてしまった。


「どうしたの?」


私とはギュッと手を繋いで離さない。大人の男の人が苦手なのかも。小さい時、私もそうだったしね。

「多分この辺りの子ではないよ。服や靴も高級な物だし、どこかの貴族の坊っちゃんじゃないかなぁ?」

 やっぱり…

「この辺りの領主は…誰かわかりますか?」

「ラドクリフ様だね。」

 ラドクリフ……

 聞いたところで、この国の娘じゃない私にはさっぱりわからないんだけどね。


「けど、お屋敷はここからかなり遠いし、この辺りにラドクリフ様所有の邸はないよ…」

 う~ん…

「…君はラドクリフ様のお家の子?」

「…………」

 顔を覗いて聞いてみたら、コクンと頷いた。

 貴族のご子息が何故1人でこの街にいるの?謎だわ。

 ラドクリフ君の服はびちゃびちゃだし、このままじゃ風邪をひいてしまうよね。

「お兄さん、そこにあるは服いくらするの?」

 全財産167ニードルの私にはかなりきついけど、買うしかない。


「お金はいいよ。この前の服のお礼だ。」

「お礼?」

「隣街に持っていったら、かなりの金額で売れたからね。」

「ありがとうございます。」 

 あの洋服、売っておいてよかった!



 雨が少し弱くなってきたし帰ろうかな。いつまでもいたら迷惑になるしね。


「ありがとうございました。一度警察に行ってみます。」

「ああ、気をつけて。」


 はぁ…

 何だかな面倒な事に巻き込まれそうな予感がするわ…。とりあえず、雨が止むまでは家に来てもらおう。私も少し休みたいし。話はそれからよね。


「今からお姉ちゃんのお家で少し休もうね」


 嫌がるかな?私がじっと見ていると、ラドクリフ君がコクコクと頷いた。

 …この子もしかして声が出ないのかな?聞けば頷いたりはして答えてはくれるし。


 それにしても、自分で生活するって大変なのね。…今までならお金の心配なんてした事なかった。18年生きてきて、やっとお金の大切さを感じるなんて…。

 楽しく暮らしたいなら、まず常識を身に付けないと。お金の価値もわからないくらい甘えて暮らしていた私には、まだまだ楽しむ資格はないのね。



 何にも無い家にラドクリフ君と一緒にと帰って来た。

「これ食べられる?」

 とりあえず買ってきたビスケット10枚。長持ちしそうなのを選んだけど、殆んど味しないのよね。

 貴族のお坊ちゃんだからこんなの食べないかも…って思ってたけど、めちゃくちゃ食べる…既に6枚食べてるし…。


 何日もたべてなかったのかな?


 この時嫌な予感がした。

 …もしかして…誘拐されたとかじゃないよね?もしそうなら非常にまずいわ。

 貴族の家の子がいなくなったなんて大事件だもの。

 もしそうなら一緒にいる私って犯人扱いされる可能性が高い。


 早く警察にいかなきゃ!

 人に裏切られた上に誘拐犯扱いなんて御免よ。


 けど、ラドクリフ君はスヤスヤ眠ってしまった。起こして連れていくのも可哀想だし、もう少し寝かせてあげよう。私も眠いし……。



「…………」

 少し寝るだけだったはずなのに…もう月が出ているわ。

 ラドクリフ君は私にしがみついて離れないし。今日は警察は無理ね。


 なんて…ここで諦めてしまった自分を呪いたい。


 嫌な予感は的中


 マール・ラドクリフ様誘拐事件…


 嘘でしょ。


「ちょっと待って下さい!私は犯人じゃありません!」


 ラドクリフ君と手を繋いで歩いていただけで、私は問答無用で捕まった。



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