第84話 何でも疑う婚約者1

伯爵邸に帰って来て、いつもののんびりした日が返って来た。


…と思ったのにね。



またしても『魔の水曜日』よ。エドワードからよびだし。


「お久しぶりです。エドワード王子。」

「5日前に会ったんだし、『久しぶり』というほどでは無いよ。」

「パーティーが終わってからお会いしてませんので。」


この前会ったオリビアを、完全に私だときめつけてるわ。


「何故パーティーの後、逃げ出したのか教えてくれる?それから、伯爵の元に帰るまでの経緯。」

「馬車で気分が悪くなったので降ろして貰っただけです。伯爵の所へ帰るまでの事は、お伝えしたくはありません。王子もそれを聞くほど無粋ではないでしょう。」

「そうだね。」


笑顔が胡散臭い!


「…今日呼び出されたのは、また『ニーナ』についてですか?別人なのは一目見てお分かりでしょう。」

「………」


あれ?何も言ってこないわね。


「…あの邸に放置していた事、本当に申し訳ない。今日は謝りたくて君をよんだ。」


まさか謝ってくるなんて。どうしたの?これは罠?…に違いないわ。


「仰ってる事の意味は解りませんし、謝られても困ります。」

「困るというならこれ以上は止めておくよ。それより『マール君』は泣き止んだ?」

「え?…ええ。」

「今度はボナースの子達が淋しがっているだろうね。」

「どういう意味ですか?」

「子供に人気があると思ってね。」


知ってるんじゃない。どこにいたか聞かなくても。


「そういえばマール君とどんなお話をなさったのですか?」

「虫が好きだとか、図鑑を見せてくれたり、君の事だったり、他愛ない話だよ。」

「私の話?」

「『ニナは優しい、助けてくれた。大好き』とかね。」

「沢山お話したんですね。」

「子供は嫌いじゃないから。」

「では好きな女性との子がいれば、尚更でしょうね。シャロン様とはそういう話にならないのですか?」

「ならない。彼女とはもう別れる。子は結婚した相手としかつくらない。」


ええっ!?それは困るわ!


「その意味は君も解るだろう。」

「私のように、好きな相手と結婚できる身分ではありませんものね。」

「…それは君に想い人がいるという事?」

「想像におまかせします。」


何か機嫌悪くなった?

自分以外を好きになるのは許さないって事なら、随分都合のいい話だよね。


「そうだ、ニナ。俺と友達になってくれないかな?」

は?

「マール君とニナと3人で一緒に遊ぼうって約束したんだよ。」

「何をご冗談を…。」

「冗談じゃないよ。それに『が遊びたい』って言ってるからね。」


やっぱりマール君を味方に!


でも意外だわ。マール君はすぐに男の人に懐く事はないのに。


「俺はと友達になりたいんだけど。」

なら。」


その胡散臭い笑顔は友達になりたいって表情じゃないよね。


「今度はマール君も招待するよ。」

「楽しみにしてます。」


『人違いするな』とは言えても、友達になってと言われてしまえば『嫌』って言えないよね…。相手は王子様だもの。

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