第11話 行方不明の婚約者4

嘘でしょ…


 家に男の人が3人もいるわ…もしかして家に誰もいなかったから勝手に住んでるとかじゃないよね…


 いえ、あり得るわ。例え物が何も無かったとしても、とても綺麗な邸だもの。あの中を探しにいくなんて危険だわ。もう無いと思うんだけど、でもどうしても1度探したい!


 ドアが開いてるし、1度通り過ぎて中の様子を見てみるとか。

そうだ!!邸のまわりにはお花が咲いてるし、これを使わない手はないわ。

お花を摘む女のふりをして、この人達が誰なのか聞いてみるとか。絶対私が何者なのか知るために話しかけてくると思うんだよね。


 もしかしたらマール君を誘拐した犯人達かもしれないし、その時は警察に知らせればいいんだよね。


「お嬢さん、こんな所で何をしてるんですか?」

 予想通り、私に話しかけてきたわ。

「綺麗なお花が咲いていたので、少し摘んで帰ろうと思ったのですが…駄目でしょうか?」

「…いや、駄目という訳ではないんだが」

 何だかなおどおどしているわ。とても怪しい。

「もしかしてこのお花はその邸のものですか?すみません、知らなかったもので。でも知りませんでした。このお邸に人が住んでいたなんて。」

「君はこの道を何度か通った事があるのか?」

「……ええ。」

通るというか、住んでましたから…

「ここにはいつから人が住んでなかったのか教えてほしい。」

あれ?何だかおかしくない?

何故ここに住んでいた人の事を聞くのかしら。もし勝手に住んでるだけの人達なら、そんな事いちいち聞いたりしないよね。


……これは、まずいわ。この人達、私を探しに来た私服の騎士なのではないかしら。ここに荷を運んでくるのは騎士だって言っていたもの。私がいない事に気がついて探している…とか。

ばれるの早すぎない?


「20日ほど前に通った時にはいなかった気がするわ。」

ちょっと盛っておこう。本当は10日間だけど。

「ここに住んでいる人に何か用があったのですか?」

「いえ…実は妹が住んでいたもので。」

これは騎士で間違いないわね。この国のどこを探しても、私には家族はいないもの。


「では私はこれで。妹さん早く見つかるといいですね。」

「…すみません、貴女のお名前をお伺いしても?」

 絶対無理です。

「殿方に簡単に名前を教えてはいけない…と、父からきつく言われてますの。では…」


 とりあえず逃げよう。他人の振りをして。

今は大丈夫よ。けど気がかりな事が1つあるのよね。あの邸の隠し部屋に騎士が気がつかないはずない。あの日着替えた服をそこに置いてきたままよ…私のもマール君のも。


 私の服はともかく、子供の服が隠し部屋にあるなんておかしい…って疑うはずだよね。そうなると、『この子供の服は誰のだ?』って思うはずよ。最近あった失踪や誘拐事件を調べるだろうし、マール君の誘拐事件なんてすぐわかる事。しかも解決済み。


そうなれば伯爵に必ず会いにくる。

私は関係者だから話しをしなきゃいけない。そうなるとばれる可能性は非常に高い…


 けれど、さっき話しをした騎士は、私を見てもニーナだってわかっていなかった。

 王子だけじゃなくて、探してる騎士ですら私の顔も特徴も知らないのかもしれないよね。

 私がこの国に来るまでに会った人って、王様含め3人と騎士が10人くらい。その人達以外との面識はない訳だし…これって私がいない事を、王様は知らないんじゃないかしら?もし知っていれば、騎士3人だけで調べてるなんておかしいもの。


これは問題ないわ。

しらを切り続ければ、私はただ『間違えて捕まえられた女』で済むわ。


それに今回だけじゃない。これから私の事を婚約者ニーナと疑ったとしても、顔も知らない人を特定はできないもの。



私に1度も会いに来なかった付けが回ってきたのよ。


礼儀知らずな王子様にね。


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