第89話 助けてほしい婚約者3

馬車に乗る時、雨はましになった。


「おじさんオギにお願い。」

「了解。」


馬車を何度か乗りかえて、『カペット村』という小さな村にいくつもりなんだけれど、宿があるか心配だわ。


「ねぇ、おじさん。カペット村に宿はある?」

「ないと思うねぇ。小さな村だから。」

「では、その手前の街でおろしてくれるかしら。」

「あいよっ!」




・・・・



「エドワード、ラドクリフ伯爵が至急会いたいそうだ。通していいか?」


クリフがため息をついて俺に聞いてきた。


「ああ。…『ニナが逃げた』っという内容だと思うのは俺だけか?」

「確実にそうだろ。」

「監視は?」

「連絡は入っていない。」

「捜索準備を。この前の姿絵も用意して、足りないなら追加で描かせてくれ。」

「もう、手配済みだ。」

「そうか…」


マール君の教育係りだけじゃなく、ボナースでも働けるようにすれば喜ぶと思ったんだがな…


「ラドクリフ伯爵。至急…とは、何があったんです?」

「ニナが…家からいなくなってしまったんです。」


案の定…


「どうして急に?」

「…それが、ニナに婚約の申し込みが」

「…婚約?その相手は。」

「…ヒル侯爵の三男のマリオ様です。」


なるほど、伯爵からすれば断るのは難しい。


「ニナは断ったんです。『自分はこの国の者ではない』『婚約者がいる』と言って。しかし、既に侯爵が『息子がニナと結婚する』と吹聴しておりまして…」


他国の女、婚約者がいる。その言葉に驚いたが、侯爵の行動への苛立ちはそれにまさった。


「本人の意思なく…そんな行動を?」

「…はい。」


ふざけるな…俺の婚約者だぞ…。

とりあえず、今はニナの居場所だ…


「ニナが頼る場所はあるのか?ボナース以外で。」

「聞いた事がありません。」

「そうか…。」

「申し訳ございません!」


大きく頭を下げる伯爵に、申し訳なくなった。


「気にしないでくれ。こちらが無理を言ったまで。それに『教育係りを嫁に』…と、侯爵が言うなんて、予想出来る事じゃない。」

「ニナは……」

「此方で探そう。この件に対して伯爵が害を被る事があれば、全て俺が対処する。一先ず侯爵には俺から言っておこう。それから、マール君には『俺とニナは一緒に仕事に行ってるから、帰ってきたら遊ぼう』…と言っておいてほしい。」


でなければ、また泣き止まない。




伯爵が帰った後、すぐに捜索を開始させた。


「はぁ…どうしてすぐに逃げるって発想になるんだ…もうすぐ夜だぞ。まぁ、宿ぐらいとるだろうが。」


「あのはこの国に来た時から1人だ。助けてくれる人がいないなら、出来るのは逃げる事だけだ。」


「…とりあえず侯爵を呼べ、今すぐにだ。無理ならそのマリオとかいう奴でいい。夜中であっても連れて来い。」


「エドワード、落ち着け。」


「落ち着いてる。」


「落ち着いてないだろ。侯爵を呼んで何を言うつもりだ?『俺の婚約者だ』とでも言うのか?」


「そうは言わない。ただ、腹が立って仕方がない。俺のニーナだ。」


「…それは婚約者としてか?それとも個人的な独占欲か?」


「は?」


「『俺のニーナだ』っていう意味だよ。どう思って言ったんだと聞いてる。」


「さぁ、ただ腹が立っただけだ。」

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