第63話 大ピンチの婚約者2

「お話とは何でしょうか?」

何となく想像はつくのよね。

「貴女、殿下とどういう関係なのかしら。」

やっぱり。

「先ほど殿下が申し上げた通りです。」

「カタサの通訳?そんなの信じられる訳ないじゃない。」

「信じて頂けないようでしたら、もう1度殿下に聞くのがよろしいかと。」


エドワードに言われても納得出来ないんだから、私が何を言っても気にくわないし信じないでしょう。


「侍女の分際でどうやって殿下に取り入ったのかしら。」


『そんな事はしていません』とか言ったら、火に油ね。


エドワードがどこへ行くのか伝えてくれていれば、こんな面倒な事に巻き込まれる前に隠れられたのに。


何て答えようかなぁ。言い返すのも面倒だし…。


「知ってるのよ。殿下が伯爵の家まで行って直接貴女を招待したって事。」


彼女の言葉で、まわりの視線はいっきに私に向けられた。

ステーシーには敗けるけど、貴族も地獄耳よね。恐ろしいわ。


「殿下が来たのはラドクリフ様にです。不在でしたので、お茶を1杯飲んでお帰りになりました。それが何故私を招待しに来たのだと思うのでしょうか?」

「貴女は招待客名簿にのっていないわ。ラドクリフ伯爵ですら招待されていない舞踏会に何故来ているのかしら?」


堂々巡り!!

真の目的は違っても、通訳は本当。


「私がどうやって殿下に取り入ったか…。言っている意味がわかりかねます。殿下直々に『侯爵がカタサ語を話せるなら私をすぐに退場させる。』と仰っていたではありませんか。もう1度私に聞くという事は、殿下の話は信用するに値しない…そう言いたいのかしら。」

「そうだね、信用してもらえてなかったなんて、私も悲しいよ。」


振り返ってみると、笑顔で近づいてくるエドワードがいた。

…今頃、何を爽やかな笑顔で。


「それと、名簿だけどね。彼女が入っていなかったのは何故かって…君なら客人ではない者の名を名簿に書いたりするかい?この会場にいる人は全てが招待客な訳ではないよ。」

「エドワード殿下にエスコートされているのに招待客でないなんて…。それにそんなの高価なドレス…」

「私が言ったんだよ。1人で会場に行くのはさみしいから…ってね。それからこのドレスだけど、相手は高貴な方ばかりだから、もてなす方も相応しい身なりをするのは当然の事。おわかりでしょう。の女性であれば。」


うわ…嫌みな言い方。


「さぁ、ニナ。話も終わった事だし、向こうへ行こうか。」


そう言って腰に手をまわされた。


「はい。」


離して!!今すぐにっ!!

たった今、特別じゃないって全否定したのに、これはありえないでしょう!


「離れてください。」


エドワードだけに聞こえるように、小さな声で言った。


「何故?」


何その胡散臭い笑顔、本当に腹が立つわ。

それに何故ですって…?


「私は客ではありません。」

「けれど俺は気に入ってる。」

「ふふ、シャロン様に怒られますよ。」

「別に構わない。」


構わなくないでしょ!


「ニーナじゃないとわかるまでならね。」

何だか余裕なのが気にくわないわ…!

「しつこい男は嫌われますわよ。」

「逃げるなら追い続けるよ。真実がわかるまではね。」


恐ろしい…っ!

そうよ…。人を2ヶ月も放置出来る男が、優しい訳がないよね。

仕事が出来るとか、そんな生易しいものじゃない。


勝てる勝負だと思われてるのよ。これは私をなめてるんだわ。

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