第2話 会いに来ない王子2
手に入れた500ニードルでスカート3枚とブラウス5枚を買った。そしてまだ278ニードル残っている。
「8枚も買って、まだお金があまるなんて…」
今までなら、服はまわりに合わせて流行りを着るのが当たり前。見栄の張り合いみたいな感じで面倒だったけど、これからは好きな服を着れるわ。
買い物が楽しいと思ったのは今日が初めてかもしれない。これを続けていくなら、やはり別居必須よね!
1人で街を歩く事は殆んどなかったから不安だったけど、自由に行きたいところに行けるのは最高の気分よ!
ちょっとお腹がすいてきたかも…。
何か食べたいけど、1人でお店に入るのはさすがにハードルが高すぎるわ…。
1度家に帰る?でも見つかったら外に出れない可能性もあるよね。それだけは避けたい。
う~ん…
悩んでいると、どこからか良い匂いがしてきた。それにつられて行ってみると、いくつか屋台があるのを見つけた。
そこには私が今まで1度も見た事ない食べ物が売られている。
平たい生地に野菜がのっていて、その上から赤いソースをかけてある食べ物がとても気になる。その辺を見回すと、それを買ったお客は立って食べていた。
食べてみたい…そして、私もあんな風に立ってたべたい。何だか格好いい!
看板には『ベイ』と書いてある。この食べ物の名前かな?
「1つ下さい」
「はいよ、2ニードルね。お!綺麗な姉ちゃん、この辺じゃ見ない顔だな。」
はっ…話しかけられた!
「あのっ…最近引っ越してきたばかりで。」
「そうか!じゃ、引っ越し祝いだ。野菜多めにのっけてやる」
「ありがとうございます!」
「おう!また来いよ!」
「はい!」
顔は怖いけど優しいおじさんでよかった。
服を買う時もだったけど、1人で物を買うだけで緊張する。別居して街の暮らしを楽しむなら、これも慣れないとね!
皆を真似て、今買った『ベイ』を食べてみる。
「美味しい!!」
2口3口と食べていくうちに、顔にソースがついた(と思う)
「お姉ちゃん、顔よごれてる~」
「だっせぇ~」
「コラ!失礼でしょ!ごめんなさいね。」
まだ5才くらいの女の子と兄につっこまれた。
「……ぃぇ…」
やはり汚れていた…恥ずかしい!
顔をふくにしてもハンカチ持ってないし…。いつも用意してくれてたから、思い付きもしなかったわ。
「ハァ…」
今日まで自分で何もしていなかったんだって身に染みる。こうやって1人になってみて初めてわかった。
あの家で、
手にはまだベイがのこっている。
…もうソースがついちゃってるんだし、これ以上ついても恥ずかしいのは一緒だよね。気にせず食べよう。開き直ればなんともなかった。
私って実は結構図太いのかも…。
次は何をしようかな…。
まず、どこに何があるか知っておくのも重要な事だよね。
結婚してすぐにここに戻ってくる予定だし。というか、この状況だと破談になるんじゃないかしら?
1度も相手は私に会いに来ないんだから。手紙すら無いし。
それならさっさとお払い箱にしてくれていいのに。
破局もいつでも大歓迎よ。
よく考えれば、今だって別居状態なわけだよね?それで毎日ヒマしてるんだから、『楽しく暮らす』なら、やりたい事とか可能性とか、そういうのを見つけなきゃダメよね。
何か出来る事…っていっても…。
「う~ん」
ドンッ!
「わっ!?」
悩んでたら誰かにおもいっきりぶつかって、しりもちをついてしまった。
「…いたた…あの、ごめんなさ……あれ?」
私にぶつかった人は、どこにもいなかった。
「あ~あ、姉ちゃんやられちまったなぁ」
「え?」
「荷物、かっさらわれたぜ。この辺にはガキの窃盗団がいるから、気を付けたほうがいい」
子供の窃盗団…。
「それは、私が事件に巻き込まれた…という事かしら…」
「事件…まぁ、被害者ではあるな。」
「……」
「あんまり大量に荷物抱えて歩かない事をおすすめする。」
「ここ、治安はよくないの?」
「いや、何処の街でもこれくらいはあるさ。」
そっか、ぼさっとして歩いてたから隙だらけだったのね。
これからは、自分の身は自分で守らないとっ!
こんな事に巻き込まれても『怖い』って思わない私は、図太いというか強い!
もう1度服を買いに行かなきゃ。
今日はそれで帰ろ…。
最終的にスカートとブラウス、この2枚を買って邸へ帰った。
これなら荷物はかさばらないし。次は窃盗団に狙われないようにしないと!
私が邸にいなかった事に誰か気がついているかと思ったら、誰にも気がつかれていなかった…。
もしかして気がついてても、放置されてたとか?
私、この国に味方がいないのかもしれないわ。
ま、別に構わないけどね。
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