第9話

「今日の夜は、なににしようかな♫」


 正直に言おう。私は今人生で一番浮かれている。彼との生活が始まって約1週間、幸せで仕方がないのだ。私は買い出しをしながら、彼が嬉しそうに食事をする姿を想像し、気持ち悪いほどにやにやしている。この1週間で、彼の好みは大体把握したつもりだ。あとは持てる知識をフル活用し、限りある食材を最大限活かせるレシピを算出するのみ!

 あれやこれやと食材を漁ったのち、私はせっせと買い物を終え、帰路に着く。この時の私は正直なところ、もうウルテミスへの恨みを少しばかり忘れかけていた。しかしそんな時、唐突に王国より要らぬ知らせがもたらされた。


「ただいま!」


 買い出しから帰宅し、扉を開けるが、いつもの彼の返事がない。私は不思議に思い、足早に部屋を目指す。


「ウリア?」


 部屋に入ると、彼は普通に椅子に腰掛けていた。しかし彼の顔は険しい表情で、その両手には一枚の紙が握られていた。


「…どうしたの?」


 私の声でようやく彼は私に気づき、簡単な返事で答えた。私がその書類のことを聞こうとした時、それより早く彼は私に書類を差し出した。私はそれを受け取り、内容に目を通す。


「…再審査通達…」


「…ああ」


 再審査とは、支援中にある人間や組織が犯罪を犯すなど、王国に敵対的な行動をとった場合、生活局監査部により行われるもので、支援の必要性を改めて審査することとなっている。…最も再審査とは名目上行われるだけで、実質的には支援打ち切り通知書に等しい。


「…王国はどうしても、俺たちを生かしておきたくないらしい…」


「そ、そんな…」


 あまりの理不尽に、思わず言葉がこぼれる。少しばかり消えかかっていた王国への憎しみが、再び炎のように燃え上がる。拳を強く握りしめ、感情的になりつつある私に、ウリアが冷静に言葉をかけた。


「心配はいらない。俺がなんとかする」


 彼は私の手をとり、私の目を見ながら言った。


「君だけでも、必ず守る」


 彼はそう言い、再審査に必要な準備書類の作成に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今更命乞いなんて、虫がよすぎますよ(笑) 大舟 @Daisen0926

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ