第4話

 体も暖まり、雨水の濡れも引いてきた頃、思わずお腹の虫が鳴ってしまう。追い出されてからずっと何も食べられなかったから、無理もないか。


「お腹、空いてるの?」


 私は頷いて返事をする。顔が赤くなっているのが自分でも分かり、恥ずかしい。


「確かに、そろそろ何か食べたいなぁ。けどうちの物は全部持って行かれちゃったし…」


 空腹を我慢するのは慣れているものの、何か私にできることはないだろうか?そう考えた時だった。


「ないなら、もらいにいくか。ちょうど雨も上がったみたいだし」


「…もらいに?」


 この辺りに、誰か知り合いの人でもいるんだろうか?


「さあ、行くよ!」


 私の返事も聞かずに、彼は私の手を取って出発する。…通り過ぎる人たちの、冷たい視線が突き刺さる。やはり私達の味方なんて、この世界にはいないのだろうか…

 少し歩いたところで、私の脳裏に一つの場所が浮かぶ。まさか、あそこに行く気なんじゃ…


「…まさか、生活局に?」


「お、よく分かったね」


 途端、私は彼の手を強く引き、歩みを止める。ついさっきの局員とのやりとりが、脳内に蘇る。


「…どうしたの?」


 何も知らない彼は、不思議そうに私に疑問を投げる。私は足が震え、今にも吐き出してしまいそうなほど気持ちが悪かったが、なんとか言葉を伝える。


「…も、もう行ったんです…でもダメだったんです…」


 私の心の思いが、そのまま口から流れる。


「…あんなところ、もう行きたくないの…」


「…そうか…」

 

 俯く私を、彼は笑って優しく抱きしめた。


「ひとりでよく頑張ったね、アテナ」


 自然と震えが止まり、心が穏やかになる。


「ここからは、俺に任せてくれ。俺を信じて、ついてきてくれ」


 彼はそう言うと、ゆっくりと私の手を引き進み始めた。私の中の不快感はいつの間にかどこかへ消えてしまい、彼に導かれるまま後を歩んだ。

 しばらく歩き、ついに事務局前に到着した。私の震える手を、彼が強く握り返す。私達は意を決して、局に足を踏み入れた。


「お、さっきの元令嬢か。いい娼館は見つかったかーい?(笑)」


 …正直、もう逃げ出してしまいたい。油断すると、今にも涙が流れそうになる。けれど、勇気を振り絞って踏みとどまる。隣に立つ、彼と戦うと決めたのだから。


「支援を、お願いしたいのですが」


 局員の挑発を無視し、ウリアは冷静に言葉を発する。その姿が可笑しいのか、局員は半笑いで対応する。


「だから、あんたへの支援は不認可なの。決まってることなの。ざあんねん(笑)」


 私とは違い、ウリアは感情的にならず、冷静に問答する。


「アテナが提出した、申請書を見せて頂けますか?」


「?、ああ、これだよっ」


 局員は一枚の紙を机から取り出し、ウリアの顔目掛けて放り投げた。それはついさっき、私が書かされたものだ。

 ウリアはしばらく書類に目を通し、言葉を放った。

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