第3話

「こんなに濡れて…とにかく中へ!」


 私はその人物に手を引かれ、屋内へと足を踏み入れた。


「ごめんね、こんなものしかないけど…」


 彼はそう言って、タオルと服を用意してくれた。シンプルで簡素な服だったけれど、私にはどんな高価な衣服よりも魅力的に感じられた。私は早速、着替えることにする。


「わ!わわっっ!!」


 彼は奇妙な声をあげて急足で奥へ行ってしまった。…私は伯爵家にいた時、見せしめでよく脱がされていたから全く抵抗を感じなくなってしまっていたけれど、あれが普通の男性の反応なのか。…なんだか、彼が可愛らしく感じられた。

 着られはしたけれど、やはりこの服は彼のものなのだろう。サイズが一回りほど大きい。隙間から空気が流れてスースーするけれど、私にはこの服がとても暖かく感じられた。こんなに心地よい衣服は、初めてかもしれない。


「あ、あの、ありがとうございます」


 遠くにいるであろう彼に、声をかける。彼は壁際から恐る恐る顔を出し、私が着替え終わっているのを確認して歩み寄ってくる。


「じゃ、じゃあとりあえず、うちへようこそ!」


 しかし、彼の顔色は曇っていた。


「…とは言っても、ここはもう差し押さえられちゃってるんだけどね」


「…一体、何があったんですか?」


 奥の部屋へと招かれ、そこで彼は説明を始めた。彼は名前をウリアと言い、王国に仕える行政人だったらしい。しかし彼は若くして実績を積みすぎてしまったために、その活躍を心良く思わない一派により、犯してもいない罪を着せられ、立場を追われたばかりか、土地や財産の全てを没収されてしまったらしい。もはや世間からは、王国に寄生する賊とまで言われる始末だ。そしてそんな彼の婚約者として、私はここに送り出された。…2人仲良く、首を括れと言うことなのだろうか。

 しかし失意のどん底にいた私と違い、ウリアの目は強く輝いていた。


「…いきさつはどうであれ、俺は君と出会えた。君の苦しみは、俺が一番分かってる。その自信はある」


 ウリアは私の手を取り、私の目を射止め、力強く言った。


「俺は君を苦しめた連中に報いを受けさせる。必ず。だから俺を信じて、一緒に戦ってほしい」


 けれど、私には自信がなかった。


「…ど、どうしてそこまで…」


「え?」


 ウリアは文字通り、キョトンとした顔をしている。


「わ、分からない…?」


 分からない。


「その…う~ん…えっと…」


 ウリアは頬を赤くし、視線を泳がせている。なにやら言葉を選んでいるようだ。


「ほ、本当に分からない?」


 分からない。


「そ、その…」


 ウリアは「す…」と言いかけ、言葉を変えた。


「お、男だから、かな」

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