第5話

「私も行政にいた頃はよく目にしましたが、それにしてもこの申請書、大変よく書かれていますね」


「はあ?」


 あからさまに、不快感をあらわにした声を上げる。


「明瞭な申請理由から支援規模の目処、推定必要期間まで記されている。これを不認可にする理由が知りたいのですが」


「はあ?そりゃこっちが決めることだ。お前たちには関係ねえよ」


 局員はウリアの前まで歩み寄り、憎たらしく言葉を放つ。


「あんたも惨めだねえ。前は俺なんかよりよっぽど上の人間だったのに、今じゃ王国最底辺か(笑)悔しいよなぁ(笑)」


 ウリアは黙ったままだ。彼のために、何も言い返せない自分が情けなくて仕方がない。局員は私たちの対応に飽きたのか、あからさまにあしらい始める。


「はあ。もうわかったろ。とっとと帰ってくれ」


 本当に、これで終わりなんだろうか…私はウリアの方に目をやる。彼は、笑っていた。


「では最後に一つだけ」


「?」


 私も局員も、ウリアの言葉を待った。


「審査書を開示して頂けますか」


「し…んさしょ…だって…?」


 私には聞いたことのないものだったけれど、どうやら局員はそうではないらしい。顔色が、変わったからだ。


「知らないとは言わせませんよ。審査の認可不認可にかかわらず、申請者本人が開示を求めた場合、局側は速やかに審査書を開示しなくてはなりません」


「な…んで、それを…!?」


 私は瞬間的に理解した。きっとそのルールは、一般には全く知られていないルールなのだろう。審査書を一般人に開示するなんて、局からすればデメリットでしかない。けれどウリアは、元行政の人間だ。この裏技を、知っていたんじゃ…


「さあ、はやく審査書を」


「い、いきなりは無理だな…じ、時間がかかる…」


「ほう、そうですか」


 ウリアは私の方を向き、笑いながら言った。


「やったなアテナ!宿が決まったぞ!当分ここに泊まれそうだ!」


「は、はあ!?」


 局員は食ってかかるが、先程までの余裕はもはや無い。


「嫌なら早くもってこい」


 局員は歯軋りをし、イライラを隠せていない。完全に立場が逆転している。

 しかし局員はしばらく立ち尽くしたのち、不敵な笑みを浮かべた。


「…ああ、すぐに持ってきてやるよ」


 局員はそう吐き捨て、奥の書庫へ向かって行った。あの不敵な笑みを見るに、このままでは終わらなさそうだと感じたのは、ウリアも同じようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る