第6話
奥の書庫から、局員がこちらに戻ってくる。その手には、私たちが求めたであろう書類が握られていた。
「そら、」
局員は小さくそう言うと、書類をウリアの顔目掛けて放り投げた。床に落ちた審査書を、ウリアは何も言わず拾い上げ、目を通す。
「…これは、なんでしょうか?」
横から私も審査書を見て、呆然とする。審査書とは名ばかりで、私が申請した内容がまともに転記さえされておらず、見えるのは大きく「拒否」の文字だけであった。
「ご要望どうり、正真正銘審査書ですが?」
足を組み、より態度を大きくしてそう言った。
「…本来ここには、認可不認可に至る判断をするまでの明確な根拠が記さ」
「ああああああああ」
突如大声を上げ、ウリアの言葉を遮る。イライラが限界値のようだ。
「そんなもんこっちが決めることなんだよ。元行政人が口出すな」
局員は私の方を向き、ゆっくりと私の前まで歩み寄る。私は後ろに逃げ出したい気持ちに襲われるが、必死に我慢する。
「大体お前らのその態度はなんだ?お前らうちに頼みにきてんだろ?だったら土下座でもして誠意見せんのが筋じゃねえのか?あ?」
薄汚い顔に、下品な言葉。彼はさらに続けた。
「それとも何か?あんたが体でもてなしてくれるっていうのか?それなら考えてやってもいいぜ(笑)」
…もしかしてこれは、私がこれまで民達と向き合ってこなかった報いなんだろうか?民達の怒りを、彼は代弁しているのだろうか?…なら彼の言う通り、ここで私が体を差し出すことが、償いになるのだろうか?
そんな考えが頭の中を巡っていた時、黙っていたウリアがゆっくりと口を開いた。
「…なるほど。あなたの言う通り、筋を通すべきなのかもしれませんね」
「やっっっと分かったか。ずいぶん小さい脳みそだったな」
「ええおかげさまで私たちの筋道を見つけることができました」
ウリアは一体、何を考えているんだろうか…?
「私達はこれより、外務局に行くことといたします」
「がい…むきょく…だって…」
途端、局員の顔が真っ青になる。外務局は確か国の中央局の一つで、生活局は外務局の包括局だ。なるほどつまり、上司に言ってダメならもうひとつ上の上司へ、という作戦なわけだ。
ウリアは冷静に、かつ力強い口調で続ける。
「ええ。きちんと審査もせず、その明確な理由も全く書かれていない怠慢の塊のようなこの審査書、これが外務局に知れたら貴方どうなるでしょうねぇ。私達は新たな担当者と話をするだけですので一向に構いませんが、あなたは局を除籍になるだけでは済まな」
「わ、わかった!!すぐにかく!!すぐにかく!!だからその事は黙っててくれ!!たのむ!!」
…信じられない。あんなに態度の大きかった局員を、こうもあっさり…
「ウリアさんっ!」
私は彼の元に駆け寄り、名を口にした。
「アテナ、信じてついて来てくれてありがとうな!」
彼はぽんぽんと、私の頭を叩いた。私は全身がぽかぽかと暖かくなるのを感じた。
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