第7話
ウリアのおかげで、私達は当分の間食べ物と住む場所には困らなくなった。しかも驚くべきことに、その住むところというのは、差し押さえられたはずのウリアの家であった。
--数時間前、生活局--
「し、支援決定書はきちんと書いたんだから、審査書の件は黙っておいてくれるんだよな…?」
私はウリアの方に目をやる。しかし彼の目はまだまだ言いたげだった。
「そうだな…じゃあ条件をもうひとつ」
「はぁ!?」
局員と同時に、私も驚く。もう十分だと私は思ったけれど、彼はなにを要求するつもりなのだろう…
「今まで俺が住んでたあの家、あそこをよこせ。それが条件だ」
条件を聞いた局員は呆然とし、一間を置いて反論した。
「お、お前…あそこはもう差し押さえられたんだぜ…そんなの無理に決まって…」
…正直、私も難しいんじゃないかと思った。けれど、彼はあの家をどうしても手放したくない様子だ。
「今まで住んでいた家で支援を受ける方が、住みなれてる分なじみやすい。脱支援に要する時間も短くなるはずだ。それはつまり、お前らが払う支援金も少なくなるんだぜ?悪くない取引だと思うが」
確かに、彼の提案は理にかなっており、双方に利益をもたらす可能性がある。
「し、しかしだな…」
しかしそれを実行するとなると、この局員は上の決定に異議を唱え、かつ既に決まった決定をひっくり返さなければならない。それがうまくいく可能性は低そうだけれど、ウリアはお構いなしに続ける。
「嫌ならいい。そのかわり」
「わ、わかった!!わかったよ!!」
折れたのは局員の方だった。
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「…でも、どうしてあそこまで譲らなかったんですか?」
ここが大切な場所というのは勿論分かるけれど、あそこまで楯突くと返って逆上させる可能性だってある。冷静な彼なら、そんなことくらい分かった上での行動だと思うんだけど。
「いや、その…」
聞いた途端、ウリアは視線を泳がせ、キョロキョロと周りを見回す。
「え、えっと…」
話しづらいこと何だろうか?なら無理に言わなくても…と言いかけたところで、彼は答えた。
「…その…アテナと初めて会えた場所だから…その…」
顔が、真っ赤になっている。私は自然と笑みがこぼれ、両手で彼の手を覆う。きっと私の顔も、負けないほど赤くなっていることだろう。
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