今更命乞いなんて、虫がよすぎますよ(笑)

大舟

第1話

「…全く。アテナ様は仮にも伯爵令嬢でございましょう?どうしてこのような簡単な事ができないんです?」


「仕方ないですわよ。だってお姉様ですもの(笑)」


 使用人にまで、笑われる始末だ。私は生まれた時から機転も利かず、要領も悪かった。本当に何をやってもうかくいかない。一方で妹のウルテミスは私とは対照的で、頭が周り人懐っこく、スタイルも抜群で、横切る男は皆彼女に視線を奪われるほど。…信じていた、レクサ公爵でさえも…


 話は、数日前にさかのぼる。

私は突然、婚約者であるレクサ公爵の部屋に呼び出された。部屋にはすでに公爵と、ウルテミスの姿があった。


「…突然呼び出して申し訳ない。実は君に話があるんだ」


「♫」


 その口調からして、良い話では無い事は明らかだった。隣のウルテミスは、なにやら大変に上機嫌な様子でこちらを見ている。


「…なんでしょう?」


 私は恐る恐る、口を開いた。


「…僕は、ウルテミスと婚約しようと思ってるんだ」


「♫」


 …正直、そんな気はしていた。公爵との婚約話が来た時、私の両親や使用人までもが、絶対に私には不相応だと口を揃えた。形式的に長女である私のところに話はきたけれど、もはや公爵の心はウルテミスに掴まれていた。


「大丈夫ですわ、お姉様。お姉様とお似合いの殿方を、もうすでに見つけておりますの。ぜひその方とお幸せになってくださいな♪」


「ああ。僕も、君の幸せを心から願っているよ」


 …もう、言葉が出なかった。非凡で、伯爵令嬢に全く相応しく無い事は自分が一番よくわかっている。けれど、こんな仕打ち…あんまりじゃないか…


「この住所にいらっしゃいますわ。お姉様にはお似合いの、薄汚い平民男でしてよ(笑)」


 ウルテミスは一枚の紙切れを乱暴に私に投げつけた。


「伯爵家は、この私が守らせていただきます。無能なお姉様なんて必要ないの。早く荷物まとめて出て行ってくださる?」


 ウルテミスはそういい、公爵の腕に抱きつく。彼女の巨乳が公爵の腕にに絡みつき、いやらしく形を変える。公爵も満更ではない様子で、下品なほど鼻の下を伸ばしていいる。


「君にも、これができたらよかったのになあ(笑)」


 私の胸の方を見ながら、公爵はそう言った。もう私には反論する気力さえなかった。生まれてきてからずっと、こういう扱いだもの。

 最近は公爵のみならず、公爵家の男達をもその体で誘惑し、もはや女王気取りだ。


「…話は終わりだ。一時期でも君が僕の婚約者だった事が本当に恥ずかしいけれど、この際それは目を瞑ってあげるよ」


「まあ、公爵ったらなんとお優しい!良かったですわね、お姉様♪」


 私は涙を流しながら、逃げるように伯爵家を後にした。

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