宗教

旧約聖書:試す神

 旧約聖書の申命記に次の一文がある。

『あなたがたの神 、主はあなたがたが心をつくし 、精神をつくして 、あなたがたの神 、主を愛するか 、どうかを知ろうと 、このようにあなたがたを試みられるからである』


 つらい生い立ちや凄惨な事件・事故になぜ私が遭遇せねばならなかったのか。

 という問いに対する一つの回答であり、処方箋である。

 アブラハムの宗教を信じる者にとって、人生は試練の場なのだ。


 神に選ばれた民であるはずのイスラエルびとは、昔も今も敵を抱え、時には敗れている。

 なぜイスラエルびとの神は彼らの敵を打ち滅ぼしてくれないのか。

 そもそもどうして異教徒の存在を許すのか。

 その疑問に対する答え方はいろいろあるのだろうが、旧約聖書の士師記にその一例が示されている。

 士師記にて神は、イスラエルびとと敵対する人々を追い払わないばかりか、時にはその侵入すら許している。

 神との間に交わした契約を履行しないイスラエルびとは守られるべき存在ではなかったからだ。

 士師記では、神に代わってペナルティを与える役割を異教徒が担っているように読み取れる。



 旧約聖書を一日一ページ読んでいるのだが、読み進められないほどつまらなくはない。

 しかし人に勧めるほどおもしろくもなかったのだが、士師記は歴史物語に近く、読み物としてわるくない。

 その士師記の末尾は、ショッキングな話として広く知られている。


 イスラエルびとの男がめかけに逃げられ、彼女の実家へ連れ戻しに出かけた。

 話はうまく運び、男はめかけを連れて家路を目指す中、ギベアという町に泊まることにした。

 そして、事件はその夜に起きた。

 泊めてくれた老人の家を町の悪者どもが取り囲み、男を出せと言う。

 それに対する老人の答えが凄まじい。

 男の代わりに、自分の娘と男のめかけを差し出すと悪漢どもに提案する。

 「はずかしめ、あなたがたの好きなようにしなさい」と付け加えて。

 哀れなめかけは男の手で悪漢どもの前へ連れ出され、一晩中強姦されて死んだ。


 現代人にはついていけない話はまだ終わらない。

 男はめかけのからだを十二切れに分け、イスラエルの十二の部族に送った。

 一緒に仇を取ってくれという手紙の代わりであり、男の怒りの大きさを表した行為だったらしい。

 当のギベアは十二部族のひとつであるベニヤミンびとの町だったので、ベニヤミンには宣戦布告の意味で送ったのだろうか。

 その方法もさることながら、そもそも女が死んだ原因を考えると、脳内にクエスチョンマークがあふれてしまう。

 しかし結果は男の思い通り、ベニヤミン対イスラエルのいくさになる。

 このいくさの描写はなかなか読みごたえがあり、ベニヤミン側も頑張ったのだが結局負けてしまった。 


 そして、そしてなのだが、現代人に理解できない話はまだまだつづく。

 いくさに負けたベニヤミンびとはほとんどが殺され、生き残ったのは六百名の兵士のみであった。

 こうなったあとでベニヤミンびとの血を絶やすべきではないとイスラエルびとは言い出したのだが、その解決には大きな問題があった。

 子供を産ませる女がいなかった。

 イスラエルびとの娘を生き残りに嫁がせるのがいちばん手っ取り早かったのだが、間の悪いことに、いくさの前に自分たちの娘をベニヤミンびとには嫁がせないと神に誓っていた。

 それでどうしたのか?

 ベニヤミン討伐に参加しなかった部族に攻め入り、若い処女以外を殺して、生き残った四百人の女をベニヤミンに与えた。

 さて、ここで簡単な算数の問題。

 600-400=?

 そう。女の数が足りない。

 というわけで、相手のいないベニヤミンびとを、祭り中のシロという土地に行かせ、娘たちを奪わせることで帳尻を合わせた。


 いくさの発端になった男は名前もその後も不明である。

 まあ、出せんわね。

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