『荘子 全現代語訳 上下巻合本版』:意識と世界

 講談社学術文庫の『荘子 全現代語訳 上下巻合本版』を読み終えた。

 訳などは池田知久さん。

 読んで思いついたことを以下に残す。


   〇


 私たちの知りうる限りにおいて、世界の調和を乱すのは、私たち人間の意識のみである。

 人間の意識以外のものは自然の流れに従って変転していくのに、私たちの意識は自然の流れを歪なものにし、世界の調和を乱す。

 別の言い方をすれば、観察者である人間の存在が、世界本来の姿を犯している。

 人に意識というものがなければ、我々も世界と同化した存在として変転していくことができただろう。

 人がいなければ、世界はその本来ある調和のとれた姿をとる。それを見る存在はいないが。


 肥大した脳の余剰物である意識こそ、人の苦しみの源である。

 私たちは意識のせいで、世界を自分勝手に認識してしまうがために、世界から疎外されている。自ら外れていくのだ。

 それが人間特有の苦しみを生むが、それから我々を和らげてくれるのは、『荘子』中の言葉で書けば、『ごたごたと入り乱れる万物の一つ』でしかないという自覚とその肯定であろう。


 私は、人の意識がなした行為の積み重ねが、人間が本来有する自然の持前をおかしな方向へ持って行くのだと考える。

 社会、民族、国家、差別など、人の意識の生み出した産物が、現在、我々を手ひどく痛めつけている。

 意識が、私たちを道から外させる。


   〇


 私は、有は無から生まれたノイズであり、無の一種であると捉えている。そのノイズを価値があるもの、有と無が対等もしくは対比の関係であるかのように錯覚させるものこそ、人の意識である。

 意識と言うものを持たずに生を終えることほど、生き物として幸福なことはないと私は考える。

 そして、その考えが正しければ、人ほど不幸な存在は、この世にないということになる。

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