根本睦夫伝 プロ野球のすべてを知っていた男

 「根本睦夫伝 プロ野球のすべてを知っていた男」を読了。

 作者は高橋安幸さん。集英社文庫から出ている。

 西武ライオンズなどで、監督・背広組として活躍した根本睦夫(故人)を、関係者へのインタビューを通じて浮かび上がらせた評伝。

 以下、感想。



 歴史を学ぶ場合、中世史が取り組みやすいそうだ。

 古代は資料が不足しているので、それを補う作業に時間がかかりすぎる。

 逆に、近現代は資料が多すぎて、その整理に労力を取られる。

 中世は、当時の社会を把握するのに必要な資料が出そろっており、量もそれほど多くはないので、研究がしやすい。

 また、ある社会のもとで、人間がどのように生きて死ぬのかを総合的にながめることができ、人間に関する普遍的な事柄を知ることができる。


 上の話を聞いた時、プロ野球が長年愛されている理由のひとつがわかった。

 プロ野球は人生の丁度良い縮図なのだ。

 一般のサラリーマンも競争にさらされているが、その結果が出るに長い時間がかかる。

 対してプロ野球選手は、二三時間でわかりやすく出る。

 どんな職業であろうとも命を費やして働いていることにちがいはない。

 その中でプロ野球選手は、その悲喜こもごもを、短い時間でわかりやすく、私たちに追体験させてくれる。


 本作は根本睦夫の評伝なのだが、個人的には、根本よりも三人の教え子たちに興味を惹かれた。

 以下に挙げる。


〇大田卓司さん

 ライオンズで活躍した、生き方が不器用な人。次の発言が心に響いた。

『嫌いな人にも電話できる人間が出世する』

『本当のことを言わないほうがいいときはある』


〇下柳剛さん

 晩年は阪神で活躍した投手。

 この人も不器用なのだが、根本はこの手のタイプを支えるのが得意だった。

 まあ、プロ野球選手というか、何かに秀でた人はたいてい不器用だけれど。

『不器用な人間というのは、感覚を身につけるまでに時間がかかっても、いったん身についたら長く忘れることはない』


〇森脇浩司さん

 どういう人かまでは知らなかったので、発言が実にクレバーで驚いた。

 根本から森脇さんへの助言の要旨。

 ・組織は窮屈なもの。そのなかで、しっかり仕事をする者がプロフェッショナル

 ・多面的に人を見れないなら、何もしてはいけない

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