ビル・ゲイツは極悪人?

闇度★☆☆☆☆

知名度★★★☆☆

規模★★★★☆


関連:反ワクチン・新型コロナ懐疑論



 ディープステートと同様に、陰謀論界隈で諸悪の根源としてよく登場する人物がいる。それがビル・ゲイツだ。金持ちはいつの世も胡散臭いものだが、陰謀論界隈は色々やりすぎている。


 彼らによれば、ビル・ゲイツは人口削減計画を推し進めており、ワクチンはその一環なのだそうだ。また、この新型コロナのパンデミックはビル・ゲイツが計画したものらしい。


 某T田K彦氏は「70億いる人口を10億まで削減するとビル・ゲイツが言っていた」とメディアで発言した。また陰謀論界隈では、ビル・ゲイツがプランデミック(計画された流行)の首謀者である決定的な証拠となるスピーチが存在するらしい。

 これは非常に気になったので、筆者は元スピーチを探して聴いてみた。スピーチは2つある。TEDの専用アプリをダウンロードすれば二重字幕がつけられるので、英語の学習にもおすすめだ。


「Innovation to zero!」

→URL: https://go.ted.com/6bsY


「The next outbreak? We're not ready」

→URL: https://go.ted.com/6bQa


 まずは、「Innovation to zero!」

 スピーチが始まって4分ほど経った頃、ビル・ゲイツは世界で増加する人口のことに触れる。内容をざっくり要約すると、「68億人いる世界の人口は90億まで増加する。が、新しいワクチン、医療システム等があれば10%から15%削減できるかもしれない」となる。「10億人まで削減」など一度も言っていない。

 T田氏は何かを勘違いしているようだ。


 このスピーチの本題はワクチンではないので、ビル・ゲイツもざっくりとした説明でワクチンの話を終えている。そのせいで、陰謀論者に余計な解釈の余地を与えてしまったのこもしれない。

 これは筆者の推測だが、ビル・ゲイツは「ワクチンで発展途上国の乳幼児の死亡率を下げる」→「間接的に出生率を下げる」→「人口増加を抑える」と言いたいのだろう。別に、ワクチンに怪しい何かを入れてどうこうしようというわけではない。きちんとスピーチを聴けば、彼がやりたいのはではなくだと解釈できる。この2つの意味は全く異なる。


 次に「The next outbreak? We're not ready」を聴いてみよう。こちらの内容はとても興味深い。ちなみに、このスピーチは2015年のものだ。

「いま、最大の世界的危機はこんな形をしておらず、(キノコ雲の写真)このようなものでしょう(ウイルスの写真)。次の数十年で一千万人以上の人が亡くなる災害があるとすれば、それは戦争ではなく感染性の高いウイルスによる可能性が高いです」

 彼はこう言った。まるで五年後に起こるパンデミックを予見したかのようなスピーチの内容には驚かされる。そして、これが新型コロナ禍がビル・ゲイツの陰謀である証拠として取り沙汰されているのだ。

 しかし、スピーチを最後まで聴けば、その可能性はすぐに消えて無くなる。

 彼は2014年に西アフリカで起こったエボラ出血熱の流行を例に挙げ、平時の疫病対策の不充分さを指摘した。そして、スペイン風邪のような世界的流行が起こったときに備え、常日頃から専門家による感染症対策が必要だと主張したのだ。ここでも、陰謀論にありがちな情報の切り取りと曲解が見られる。


 多くの情報は最初の発信元、一次ソースを辿ることができる。伝言ゲームの末端にあるn次ソースのほうが手に入れるのは簡単だが、正確性は発信元から遠ざかるほど低くなる。一次ソースは今回のように見るのに手間がかかったり、専門知識が無いと読めない論文だったりすることが多い。大事な情報はいくつかの発信源を比較して探さなければならない。自分の気に入らないメディアも参考にするべきだ。

 どうしても正確な情報がつかめない時は、自分の考えだけで結論を出そうとせず、あえて何もわからないままにしておくのも悪くないだろう。

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