女神ちゃんと指切りさま

一矢射的

太陽と月は追いかけっこがお好き



 僕の名前は石橋ワタル。

 小学五年生でありながら魔法少女「女神ちゃん」の助手役をこなし、学業のかたわら日々都市伝説の怪物に立ち向かう正義の味方なんだ。


 ……な~んてね、まさかそんな漫画の設定じゃあるまいし。

 ゴメン。魔法少女なんて真っ赤な嘘。でも残り半分はまあまあ本当かな。


 女神ちゃんは確かに僕の友達だけど変身なんてしないし、派手な魔法も使わない。気味の悪い噂を仕入れてきては、皆を怖がらせてばかりいるオカルトマニアな女の子。

 昼間の彼女はなんだか言うこと成すことかなり浮世離れしていて、そういうのを不思議ちゃんって言うのかな? 肌が白くて三白眼、曇り空みたいにドンヨリした雰囲気を漂わせながら、いつも僕の後をこっそり付け回すちょっぴりストーカー気質のある子で……うん、こんな紹介じゃあんまりだね。

 ちゃんと良い所もあるんだよ。案外面倒見が良くて、怪事件に巻き込まれた人を見捨てられないみたいだし、八重歯がのぞくはにかんだ笑顔も可愛いし(委員長に言わせれば「ダーク八重歯ちゃん」なんだって)発言が過激なわりには極度の恥ずかしがりなのか、挙動不審でこちらと目は全然あわせてくれないけど。

 まぁ、とにかくどっぷり闇属性に頭までかった変わった娘なんだ。


 彼女の口から「アタシは月の女神の一人娘だから、凡人は敬意を払え」なんて言われた日には、笑い飛ばすのにも勇気がいるよ。

 夕暮れの街を徘徊はいかいする怪異どもが、全て彼女のお母さんが作り出したものだって話も案外本当なのかもしれないな。僕がそんな彼女と離れられないのも、きっと夜の街で味わったスリルが忘れられないからなんだ。


 そう、怖いだけじゃない。僕は女神ちゃんが見せてくれる「未知」に魅かれている。彼女もまた僕と友達でいることで昼間の自分を保とうとしているように見える。僕らはお互いに不足した何かを補い合う関係なのかも。

 だからこそ、なまじっか彼女を通じて非日常に触れてしまったからこそ、本当は闇の恐ろしさに気を付けなければならないんだ。

 ほら、よく言うでしょ? 何事も慣れてきた時が一番あぶないってさ。

 何度も怪異に出くわしてそこから生還していると、感覚がマヒしてくる。実はあんなの大したことないんじゃないのかって……もしかして僕でも奴らの不思議な力を利用できるんじゃないかって、そういう不謹慎ふきんしんな考えが芽生えてきちゃうんだ。

 今回はそんな話。楽してズルできる、そんな美味い話なんかあるわけないよね?

 










 始まりはクラスメイトの些細ささいな陰口だった。

 将来の夢を訊かれたら漫画家と即答する石橋ワタル。彼にとって、昼休みの日課はノートに漫画を描くことであった。しかしそれは、一部の運動好きなクラスメイトから失笑を買うような時の過ごし方でもあった。



「漫画家なんてなれるわけないのに、よくやるよ」

「そんな暇あったら、勉強するか体でも鍛えろよなぁ」



 別に陰口を叩く本人もワタルに聞かせようと思っていたわけではないのだろう。

 恐らくは単に素の声がデカいだけだった。

 直後にワタルが席を立ち、教室を出ていこうとするのを見て「ヤベッ」などと困惑している所からもそれが見てとれた。

 悪意あるイジメではない、それはワタルにも判っていた。


 それでも内心気にしていることをズバリ言われると動揺を隠しきれない。

 クラスの委員長が声をかけ、どうにかとりなしてくれなかったらその後は気まずいことになっていただろう。倉橋エリカ。親が芸人だという彼女は、怪しげな関西弁を操り、サバサバした性格でクラス内を仕切っている。



「アンタらぁ、アカンよ~幾ら本当のことでも。本人は気にしとるんやから」

「ちょ、委員長それはひどくない?」

「なんや男のくせして。そんなに悔しかったらワタルも言ってやったらいいねん。お前かてサッカー選手になるのは競争激しいんちゃうかってな」

「いやいや、そんな泥試合したくないよ」

「みっともないやろ? せやから、これで止め! それにワタルをイジメたらあの子がウルサイでぇ」



 委員長か指さしたのは半開きになった教室のスライド扉。その陰から顔を覗かせているのは、隣のクラスから探りを入れに来た女神ちゃんだった。乱れた髪を唇にくわえ 怒気に満ちた目でこちらを見つめる様子は、墓場の下から這い出た悪霊のごとき様相を呈していた。

 扉に爪を立て、キリキリと音を鳴らしているのだから闇属性のキャラとして完璧であった。

 スポーツ男子たちはそのド迫力で一目散に逃げて行った。

 ワタルとしては複雑な心境であった。

 

「ま~た、彼女に助けてもらった扱いになるのかな、これ」

「ワタルがシャキッとせえへんからやでぇ。いっそのこと漫画家になる夢も彼女に叶えてもらったらどうなん? 世の中、コネや。神さんのコネなんて最高やん」


 それは委員長の単なる軽口に過ぎなかった。それでも今のワタルにはそれを笑い飛ばせるだけの余裕なんて有りはしないのだった。心に浮かんだのは正義とは無縁の愚痴ぐちであった。


 ―― 確かになぁ。いつも誰かの為に頑張っているのにさぁ。幾ら危ない目にあっても、僕には何のご褒美ほうびも無いなんてどうかと思うよ。


 かといって、そんなワガママをお願いしたら彼女に失望されるのは明白なので。

 どうも女神ちゃんにとっての石橋ワタルは、男らしく陽気な「理想の恋人」でないと満足できない ご様子なのだ。(酷い重荷!)

 女神ちゃんのはにかんだ笑顔を曇らせる気にはなれず、ワタルは安易な我がままをグッと飲み込むのだった。


 しかし、だ。

 女神ちゃんもまだ子どもなので、時には口を滑らせることがあった。



「満月の晩はダメだよ。遅くまで寄り道したり、出歩いちゃダメ。外泊なんてもってのほか。月の光が街にあふれて色々と奇妙な現象が起きるから。ママの力が暴走しているのよ。ハァハァ、しんどい」



 そんな裏話を聞かされたのは、たしか同じ日の放課後だったろうか。

 町内子ども会の恒例行事「真夏のサマーキャンプ」を今年はいつやるか、そんな他愛ない話をしていた時だったと思う。

 女神ちゃんはキャンプなんて参加したこともないのに口を挟んできて、周りをあきれさせていた。ワタル達は昇降口の前で話していたのに、わざわざ二階からダッシュで駆け降りてきた挙句に上記の横槍なのだから、あきれられて当然の奇行ではあった。


 でもそれは、女神ちゃんの助手として聞き流せない有益な情報であった。



 ―― 奇妙な現象ってなんだろう? みんなの噂が本当になったり、いるわけもない怪物が出てきたりする事かな? いつもの怪事件から察するに、そんな感じ。



 だとしたら、密かに温めていた計画を実行に移す好機であった。

 ワタルには「気になっていた噂」があったのだ。

 それこそが「指切りさま」の都市伝説だ。











 深夜零時れいじ。魂の力を欲する者は駅の西口から出てすぐの繁華街にある雑居ビルを訪ねるべし。廃墟のビルに住んでいる「指切りさま」は「将来かなえたい夢」を必ず実現してくれるという。


 前にも興味本位でこっそり見に行ったことがあるけれど、潰れた会社のデスクや書類が乱雑に放置されていたくらいで目ぼしいものは何もなかった。

 あれはもしかして行く日時がズレていたからなのでは……?

 女神ちゃんが言う満月の晩ならば、あるいは……。


 外れかけて逆さになったバーガーショップの看板。それが、該当ビルの目印だ。

 さる満月の晩、石橋ワタルは単身そこを訪ねていた。懐中電灯の明かりに照らされるビルのエレベーターホールは蜘蛛の巣だらけでオゾマシイの一言だった。どこからかすえたカビの臭いも漂ってきた。

 当然、電気なんかきてないので階段で登るしかなかった。


 二階、三階では何も見つからなかった。

 廃墟特有のもの悲しさ、かつては誰かの人生がそこにあったというほこり塗れの過去が墓標のごとく(もしくは打ち捨てられた犬の糞みたいに)残されているだけだった。されど四階、そこへ足を踏み入れた瞬間背筋がゾッとした。誰かの笑い声が耳を掠めたからだ。



「フフッ」



 ほんの一瞬だが、確かに聞こえた。耳元に息遣いすらも感じた。



「誰だ!?」



 ライトで四方八方を照らしたが人影は見当たらなかった。

 代わりに見つかったのは、ひび割れたガラス戸とそこに張られた「テナント募集中」のポスターのみであった。こうして懸命に募集するも、結局は助けに来る者もなく……敗者の人生とは往々おうおうにして、そういうものなのかもしれなかった。



 キィイイ……。



 前回の訪問時は施錠せじょうされて入れなかったその扉が、ゆっくりと軋んだ音を立てながら開きつつあった。ゴクリと生唾を飲み込むとワタルは室内に歩を進めた。

 ガランとした寒々しい空間だった。他の部屋で見たデスクや書類棚、ロッカーの類は片付けられておりコンクリートの床や配管が剥き出しだった。ただ一つ、場違いな代物しろものが少年を待ち構えていた。


 姿見すがたみ、鏡、それもスタンド式の大きな奴。

 洋服屋なんかで見かける「全身を映す」タイプだった。

 怖々と中をのぞき込むも、鏡に映った自分は同じように怖がっているだけ。薄暗い室内にはこれといって他に何も無いようであった。


 部屋がやけに暗いのは窓のブラインドが閉じているせいだ。ワタルは何気なくチルトポールを捻り、明かりを呼び込もうとした。

 ブラインドの隙間から見えたのはあまりにも巨大な満月。真っ白なその明かりは狂気を誘発する美しさと冷酷さを兼ね備えていた。ワタルは一目で魅入られてしまい、雲海を漂う銀色の真円を暫し眺め続けていた。

 長く透明な輝きを全身に浴びていると、ささくれだった心にも少しずつ優しい気持ちが染み渡っていくかのようであった。しかしそれは麻薬のように脳を痺れさせる悦楽えつらくでもあった。

 見ていると少しずつ、脳内に霧がかかっていくような……。


 すっかり散漫になった警戒心を呼び戻したのは、背後で鳴った靴音だった。

 靴底のゴムが床と擦れる砂を噛んだような音。


 少年が振り返ると、そこでは尋常ならざる二つの異変が発生していた。

 まず一つ。鏡に何も映っていなかった。ワタルは姿見の正面に立っているというのに、鏡面には無人の室内だけが反映されていた。


 次に二つ目。鏡の背後から人影が立ち上がろうとしていた。

 見るからに子どもで、真ん中分けの前髪と妙に鋭い目つきが特徴的な少年。

 それは毎朝ワタルが洗面所で目にする仏頂面ぶっちょうづらと瓜二つだった。

 服装からスニーカーに至るまで、全てが酷似していた。


 思わずワタルが後退ると、窓枠に背がぶつかりガシャンと音を立てた。



「な、なんだお前は!?」

「ご挨拶あいさつだな、僕に会いたくて来たんだろう?」



 もう一人の自分はニッコリ笑って両腕を広げてみせた。



「指切り様だよ。さぁ、かなえたい夢があるんだろう?」

「いや、そんなまさか」

「白々しい。言いたまえよ、漫画家になるんだろう? 絶対になるんだろ?」



 指切り様が一歩ずつ間合いを詰めてくる。

 ワタルは恐怖から相手の脇をすり抜けて、部屋を脱出しようと試みた。すれ違いざまに腕を掴まれてしまい、その試みはあえなく失敗に終わった。

 耳元で自分とまったく同じ声が囁いた。



「なぜ怖がる? ここに来たからは僕と指切りするんだ、ちゃんとね」

「やっぱり嫌だね。誰が、お前なんかと取引できるか、どうせ犠牲を要求してくるんだろう」

「ただ指切りをして約束するだけだよ。十年以内には漫画家になってみせるって。死に物狂いで努力するのは君さ。誰かと誓いを立てるからこそ、人はそれを果たそうと四苦八苦できるんだ」

「……それで? 努力すれば誰しも夢をかなえられるっていうの? 絶対に?」

「さてね? 僕の所には、夢をかなえた人しか御礼おれいに来ないけど」

「……」

「かなえたいんだろう? 見返してやりたいんだろう? 期待に応えたいんだろう?」

「でも……」

「勝った者だけが皆に愛してもらえる。負けた者はただゴミのように捨てられるだけ。全てを失ってもいいのかい? まぁ無理かもね、君って臆病みたいだから」

「ち、違うよ! やってやる! ただ指切りするだけだろ」

「そうこなっくちゃ」



 鏡の前に立つ、瓜二つな少年二人。

 彼らは満月だけが見守る中、か細い小指同士をからませた。



「じゃあいくよ? 君は漫画家になれるよう今日から死ぬ気で力をくすんだ。猶予ゆうよは十年以内。それでいいんだね? もし自信がなければ二十年にしとく?」

「バカ言え。十年でいいよ」

「うふふ、約束だよ?」



 二人は互いの腕を上下へリズミカルに振りながら、誓約の歌を唱え上げた。



『指切りげんまん、嘘ついたらハリセンボンのまーす。指きっ……』


「ダメだよ!」



 右頬に激痛が走り、ワタルはハッと気が付いた。

 そこはやはり月光差す廃ビルの一室。

 だが、目の前に立っているのは指切り様ではなく女神ちゃんであった。その顔は眉をひそめて随分と悲しそうだった。



「気が付いて、ワタルくん。今キミは何をしているの? たった独りで」



 ワタルは己の置かれた状況に唖然とした。

 なんと彼は、独りぼっちで指切りをしていたのだ。

 自分自身の左手と右手が小指で結ばれていた。更には「誓いの歌」を独りで口ずさみ ――。これではまるで間抜けな御飯事おままごとだ。

 なんでこんな真似を!? 少年は腰が抜けてその場に座り込んでしまった。絡んだ小指の震えがガタガタと止まらなかった。



「何だよこれ。指切り様は?」

「そんなもの、初めから居ないよ。満月の光がもたらすのは強い自己暗示。貴方の不安や恐怖がそのまま形を成した物。それが月光の怪物だから」

「はぁ?」

「頬を叩いちゃってゴメンね。でも、止めないと。君はきっと自分で自分を追い詰めてしまうだろうから。『拳万げんまん』ってのは一万発のパンチ、『ハリセンボン』は魚じゃなくてい針千本のこと。もし、約束を果たせなかったら……」

「かなわないってのか!」



 単なる八つ当たりだと知りながらも、ワタルの喉から怒気がほとばしった。



「君までそんなことを! 僕じゃ夢はかなえられないって言うんだな。そんなら、僕は何の為に生きているんだ。そんなの、そんなの死んだ方がマシだよ」



 人は感情が高ぶり過ぎると、力を抜くことすら思い出せなくなってしまうものなのだ。少年の両の小指が絡んだまま切れないのはそれが理由だった。

 これでは指切りが成立しない。

 それでもワタルは自分のプライドにかけて、力ずくで強引に指を切ろうとした。誰が何と言っても、漫画家の夢を諦めるつもりなどなかった。


 その両手に女神ちゃんがすがりつく。

 彼女の温もりは体の震えを鎮める不思議な慈愛が宿っていた。



「そんなの ――独りで決めないで。アタシはまだ二人の夢を見たいんだから」



 女神ちゃんはそう言って、絡んだ小指にそっと口づけをした。

 それは恐らく、彼女が見せた初めてといってもよい「大人の女性」らしさを感じさせる仕草だった。突然の出来事でワタルはキスに興奮したり照れたりすることすら出来ず、ポカンと口を開けているばかりだった。



「なにを……」

「闇に焦がれる気持ちは誰にでもあるよね。勿論、ワタルくんにだって。気付いてあげられなくてゴメン。いや、アタシも怖くてそこから目をそらしていたんだと思う」

「あの、僕は……」

「でも、言わせてもらうなら。その、ねぇ、私ならば何時だって優しく『手ほどき』してあげるから」

「へぇ?」

「貴方を闇に染めるのは私がいいの。将来の夢? 指切り様? そんなのヤダ! 貴方は私の為だけに闇堕ちして欲しいから。もっと求めて、カモォーン」

「ええぇ!!?」

「だから、こんな指切り『上書き』しちゃうよ。今後は二度と『アタシ以外の誘惑には乗らない』って。ワタルくぅーんは、そう誓うの」



 大人の女性らしさは、いったい何処へやら。

 あっという間にいつもの早口に戻ると、彼女は独りでまくし立てた。



「嘘ついたらハリセンボンのまーす。指切った」



 勝手に歌うと、女神ちゃんは絡んだ少年の小指を引きはがして「指切り」を完成させてしまった。

 余りの身勝手さに、ワタルは苦笑するばかりだった。

 でも、独りで暴走して、彼女のことなんか何にも忘れて、勝手な契約を結ぼうとしていたのは彼もまた同じであった。


 それを想うと、これまで何度も命を助けてくれた彼女に対して申し訳ない気持ちが込み上げてきた。 ――それと幾分か「自分なんかの為にここまで言ってくれる彼女への愛おしさ」も、ほんのちょっぴりだけど感じずにいられなかった。

 将来の夢をかなえる自信すら欠けたワタルだというのに、彼女ときたら。


 本当に、彼らは白と黒で昼と夜。互いに欲する所を補い合う関係なのだ。

 つまりは、二人とも貪欲どんよくでお似合いってこと。


 ワタルは女神ちゃんからは見られないようにそっと小指にキスをした。

 普段はそんなこと絶対しないのだけれど、今晩はきっと満月が彼を狂わせたのだ。











 その日以来、僕たちの関係は少しだけ変化した気がする。

 表面上は何も変わっていない。相も変わらず魔法少女とその助手みたいな間柄あいだがらで、昼間はしっかりとマークされて追尾されっぱなし。

 でも時折、僕を見つめる彼女の目が「貴方の弱みはもう握っているんですからね」と語りかけてくる。夜の眷属けんぞくになりたいのなら入会手続きはいつでも受け付けてくれるみたい。

 でも、なんだかなぁ。別にそんなことしなくても僕たちは今の関係で十分楽しいのに。むしろ、それを壊してまで何を望んだらいいのか判らないんだけど。


 きっと、それで良いんだと思う。

 女神ちゃんも内心では、僕が闇の言いなりにならないままであって欲しいんじゃないかと。

 何となくだが、言葉の端々からそう感じるのだ。


 今日もまたクラスメイトが街で起きた新たな怪事件の話を持ち掛けてくる。

 そんな話はもうすっかり「僕らの担当」なのだ。


「ねぇねぇ、人釣り女って知ってる?」

「気に入った男性がいると街で声をかけて『釣り上げて』しまうんだって」

「すっごい美人なんだってよ」


 まーた、そういう話を。

 女神ちゃんが怖い目で見ているから止めて下さい。

 もう指切りしちゃったんだよ。


 他の怪異に誘惑されて、それに屈したらパンチ一万発なんかじゃ許してもらえそうもないから。僕は拒み続けるだろう。二人で見る「今という夢」をまだ終わらせないように。


 


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