濃密なミステリー&ダークファンタジー

登場人物は多いものの、それぞれ種族事の特性や性格を持ち合わせているため、混乱することなく読み進められました。多様な獣人が、その獣の特性を活かして生き生きと描かれ、そこに何気ない日常の生活の描写も相まって、リアリティあるファンタジー世界が生まれています。

個人的には、『ジーンマイセの丘』のような逸話が好きで、こうしたその世界オリジナルの民話が挿入されていると、歴史の堆積が感じられて、世界が厚い書物のように形作られているかのようです。

戦闘シーンは臨場感がありつつ、個々人の想いがそれぞれの行動に反映されている上、脇役だと思っていた人物が思いも寄らぬところで活躍を見せたりと、ハラハラしながら思わず食い入るように読ませていただきました。

ストーリーの『日常編』は、細部まで丁寧に描写され、ゆったりとした日常が彩られていきますが、『ミステリー編』から一転急降下、穏やかな雰囲気から一気に殺伐としてきます。
ミステリー要素も含みつつ、ダークファンタジーな印象もあるストーリーで、特に、ある時点から示唆されるとある組織の思想については、ぞっとさせられました。

そんなストーリーの中で、両親に劣るアルバとして劣等感に苛まれるショーンと、10年前の悲惨な事件の被害者でありつつも明るく気丈にふるまう紅葉の関係が、互いの脆さを補いつつ、魅力を引き出し合っているように感じられました。

よく練られた設定、濃密なミステリー&ファンタジーストーリー、魅力あるキャラクター。
『サウザス編』の後、物語がどのように展開されていくのか、そしてショーンは何を目指し、どのようなアルバになっていくのか。
この先の展開が気になるところです。

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