予定調和を嫌う年頃、自分にもありました。失われきらない「あの頃」の痛み

予定調和の物語が嫌い、という年頃、私にもありました。
というか今も、若干その傾向があります。
ハッピーエンド、大団円、めでたしめでたし――作者の脳内だけで組み上げられた「よくできた幸せなお話」。世に溢れるそれらが、集まると一種の「型」となり、重圧として自分を締め付けてくる……そんな風に感じていた年代が、確かにありました。特に中高生頃。

とはいえ本作において、それは必ずしも本題ではないように思われます。

かつて感じていたそれらの感覚は、いつしか過去になっていく。けれど、過去になりきらないものもある。
本作が主眼としているのは、むしろそちらであるように自分は感じました。
世に溢れる「型」に順応したり、適合したり、単に忘却したり……そうしていつしか忘れていく生き辛さ、息苦しさ。けれど、すっかり忘れ去れるものでもない。
そういったものへの郷愁めいた何かを、感じました。

名状しがたい情感を含みつつ、細やかに配された事物の数々も、鮮やかに情景を彩ってくれています。
繊細な感情の揺れを、存分に堪能できる作品だと思います。

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