描かれる情景の、解像度の高さに圧倒されます。
かつて賑わった鉱山の村が、見捨てられて寂れ、廃墟に近い状態になっていった――その過程が目に見えるようで、村に配された事物の構成、ひとつひとつの事物のディテール、どちらもとても現実味があって生き生きしています。
それらの表現は、紋切り型を意識して避けているようにも思えます。
本文中で、血染めの手を「真っ黒」と言及する場面がありますが、深く考えずに書いてしまうと出てこない形容であるように思います。
血といえば赤、と単純に考えてしまうと、表現は簡単に紋切り型に陥ります。そこをあえて外しているところにも、本作の描写精度の高さが表れているように思います。
ここまで情景描写についてばかりお話ししてきましたが、本作の情景は「描写のための描写」ではありません。
物語の本筋――主人公の憂鬱や恐怖、同級生への想いなど――を盛り上げるための要素となっています。
本筋の内容はとても盛りだくさんで、短編と思えないほどに色々な要素が詰まっていますが、それらが空中分解せずにひとつの世界にまとまっているのは、高精細な描写がもたらす空気感・情景の力が、全編を包み込んでまとめあげているからではないかと、レビュー筆者は感じました。