第16話:離宮

「キャメロンお嬢様、これどうします。

 馬車やテントがあるから、別に無理に離宮で寝起きしなくても大丈夫ですよ」


 ブレンダが半ば怒り半ば呆れた感情を隠しもせずに話しかけてきます。


「申し訳ありません、キャメロン嬢。

 我々もこんな状態だとはまったく知らされておりませんでした。

 ただ、今これでようやく側近の方々が言われた言葉の意味が分かりました。

 側近の方々からは、キャメロン嬢が買いたいと言われたら、皇国軍のテントや物資を売ってもいいと言われておりました」


 これは明らかに確信犯ですね。

 離宮という名目の廃城を貸し与えて、私のお金で修築させようという魂胆です。

 まあ、魔力と魔術を使えば、費用を使わずに修築する事も可能です。

 ですが私の魔力や魔術を側近衆に知られるのは危険でしょうね。

 創り出した宝石の一部を売れば、修築くらいは簡単ですが……


「ブレンダは馬車とテントで寝泊まりする準備を始めておいて。

 騎士隊長殿にはお願いがあるのです」


「何なりと言ってください、キャメロン嬢。

 正直な気持ちを申し上げれば、これはいくら何でも側近衆が悪い。

 この事は側近衆が止めても皇太子殿下にご報告します。

 皇太子殿下は必ず何らかの支援をされると思われます。

 ですがそれまでにはかなりの時間が必要になります。

 支援が届くまで生活に支障がないように、協力させていただきます」


 この騎士隊長は皇太子殿下に対する忠誠心が強いようですね。

 演技や嘘の雰囲気が全くありません。

 この騎士隊長が相手なら、率直にお願いする方がいいでしょう。


「一つは側近衆が許可されているテントや物資を売ってください。

 後々の事もありますから、無理はせず側近衆が決めた値段で売ってください。

 お金の事よりも大切な事をお願いしなければいけないのです」


「分かりました、本当に大切な事がおありなのなら、独断で安くしたりはしません。

 私の信用とコネは本当に大切な事に使わせていただきます」


「私が望むのはこの離宮の修築費に見合う報酬です。

 お金には全く困っていませんが、タダ働きは嫌なのです。

 修築費用が皇国の保護の代償と申されるのなら仕方がありませんが、そうでないのなら、修築費の代わりにこの離宮と近隣の土地を褒美に欲しいのです。

 その代わりと言っては何ですが、この地方の防衛と治安維持は引き受けさせていただきます。

 恐らくですが、側近衆も最初からそういう思惑なのだと思います」


「なるほど、そういう事ですか。

 確かにこの地方の治安は急激に悪くなっております。

 隣国との関係も悪化の一途です。

 分かりました、皇太子殿下にもご相談して、離宮と土地の下賜を交渉しましょう」

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