踏切のある街

「それまでは全然気がつかなかったけど、岸本君の絵を見てから、ここから見える景色ってこんなに綺麗だったんだって思ったよ」

　十四歳のある日、彼女は僕にそう言った。
　その年の夏、僕には忘れられない一日があった。その日から、それまではただの特技だった「絵を描くこと」は、より特別な意味を持つ行為になっていった。はたから見れば、ありふれた出来事に思えるかもしれない。けれど、彼女といた時間とそこで描いた絵は、その後の七年間の僕の青春期に深い影響を及ぼした。

　かつて特別な時間を共に過ごした少女が出てくる夢を見る。そんな朝から始まった、大学生岸本の過去と現在と、創作への気持ちの揺れ動きを描いた短編。


（※　こちらのページでの掲載作品は予告なく変更・削除することがあります）