ギルドでの出来事

「ここが今あるギルド。世界樹ユグドラシルなのじゃ」


 そう言って連れてこられたのはこの国の最果ての街だった。


 ロイズさんは転移魔法も使えるらしくて移動は一瞬だった。俺もまだ使えないのに……。ちょっと悔しいな。


「いや、世界樹ユグドラシルへようこそと、言うべきか」


 案内されるまま中に入ってみると閑散としていた。もっとギルドって騒がしいイメージがあったんだけど、これも陛下のせいなのか……。


 そんな中ロイズさんは一つの椅子に腰をかけた。


「それじゃあ色々説明をしておきたいのじゃが」

「お願いします」

「——と、その前に」


 いきなりロイズさんは光に包まれ、その眩しさに思わず目を瞑ってしまった。


「うっ……」

「おお、すまんのー」

「えっ? 誰⁉︎」


 目を開けて前を見ると色っぽい大人の女性が立っていた。


 耳が尖っており、初めて見たがエルフだと分かった。この国に居るなんて珍しいな。


「ロイズじゃよ」


 ロイズさん? は平然と答える。さっきまでの姿とは違いすぎて目を疑うけど喋り方はロイズさんだった。


「フェルナンド王国では人に姿を変えとかんと色々面倒じゃからの」

「それはそうですが、何であんな幼い子になってたんですか?」 

「あっちの方がウケがいいのじゃよ。普通に歩いてるだけで、色々くれたりするからのう」

「なるほど……」


 ロイズさんは不気味に笑いながらそう言う。中々あくどいことしてるな。


「で、ギルドの話なのじゃが」

「はい」


 ロイズさんは話を戻してギルドの話を始めた。


「魔道士ギルドの大体のことはわかっておるんじゃな?」


「はい。仕事を貰える場所みたいな感じですよね?」

「まぁ簡単に言えばそうじゃな」


 俺の言葉にうんうんと頷いていた。


 ギルドの冒険譚みたいな本は好きで良く読んでたから結構理解しているつもりだ。


「大体わかっているなら良いじゃろう。ギルドは完全実力主義なのじゃ。これから頑張るのじゃぞ」

「……それだけですか?」


 もっと詳しくギルドの説明とか色々されると思ってたのだけど。


「大体分かってるんじゃろう? なら後は習うより慣れろと言うやつじゃよ」

「しかし、他のギルドメンバーとかの説明とかは無いんですか?」


 ギルドの説明と言っても俺が知ってるのは一般的な知識だけなんだけどな。


 このギルド特有のものとか、主要メンバーの説明とかしてくれてもいいと思うんだけど。


「ああ……。他のメンバーはじゃな……」


 ロイズさんはそう呟くと頬をぽりぽりとかいてそっぽを向いていた。


「……もしかして他にメンバーが居ないなんて言わないですよね?」

「さ、流石に居るぞ!」

「何人ですか?」

「……儂を入れて三人……」

「はっ……⁉︎」


 まさか人数少ないと聞いていたけどマスターを除けたら二人しかいなかったなんて……。


 早くもこのギルドに入るの辞めたくなってきたかも。

 俺は肩が落ちるような気分になった。


 そんな姿を見たロイズさんは励まそうとしたのか、俺に声をかけてきた。


「大丈夫じゃよ! 一人はまだまだじゃが、もう一人はめちゃくちゃ強いから安心せい」

「そうなんですか……」


 めちゃくちゃ不安だ。マスターがめちゃくちゃ強いってのは分かるけど適当すぎるからな……。


「ただいまーマスター!」


 落胆している時に元気そうな声が聞こえた。


 その声が聞こえた方には夕陽のような鮮やかな朱色をした髪を持っている女の子が、こちらに手を振りながら歩いていた。

 歳はほぼ同じくらいの女の子か。


(とても可愛らしい子だな。街でいたら目を引きそう)


 とまるで関係ないと言わんばかりの感想を心の中で呟いた。


「おお、ミネア。やっと帰ってきたか」

「うん。やっと仕事が終わったよー。——それでこの人は?」


 首を傾げてミネアはロイズさんに問いかけていた。


「ああ、紹介せないかんな。新しく入ることになったマリウスじゃ」

「よ、よろしく」


 その自己紹介に合わせる様に軽く頭を下げた。

 俺の紹介に大きな目を宝石の様にキラキラとさせて俺の手を握ってきた。


「ちょっ!」

「よろしくー! 私はミネア。気軽にミネアって呼んでね!」


 ミネアは俺の手を握ったままでブンブンと上下に手を振った。

 地味に痛い。


「よろしく。ミネア」

「うん! よろしくねマリウス」


 軽い挨拶をし終わるとミネアはニコッと笑った。

 その笑顔はとても綺麗で一瞬目を奪われた。


 その俺を正気に戻す様にロイズさんは口を挟んだ。


「詳しい話はミネアにしてもらうんじゃ。儂はこう言うのは苦手じゃからの」

「はぁ……。分かりました」


 ロイズさんの言葉に渋々頷いた。隣で一緒聞いていたミネアは何か思いついた様にこちらを見て口を開いた。


「じゃあ一緒にクエストでも行こうよ! 向かう途中とかに話してればいいし」

「あ、うん。分かった」


 流れる様に頷いてしまった。

 まぁどうせクエストには行くんだろうし、誰か一緒にいると頼もしいだろう。


「じゃあ、楽しんでくるんじゃぞ。今ならこんなクエストもあるからやってくると良い」


 そう言って一枚の紙を渡された。


「うん! ありがとーマスター。——じゃあ行こ!」

「あ、ああ」


 ミネアに手を引かれ俺はクエストへと向かった。

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