大会決勝戦

「マリウスって酷いね。本当に手を出してくれなかったんだもん」


 ミネアが不貞腐れた様子で文句を言ってくる。

 さっきの試合のことだろう。


「いいだろう? 試合には勝ったんだし」

「まぁ、それはそうだけど」


 一回戦。男三人のチームに俺たちは圧勝だった。

 ミネアが近距離の男をやり、アイリスが苦手ながらも攻撃魔法で他の二人を倒した。


「アイリスもなんか文句言ってよー」

「ま、まぁ勝ったんですし。いざと言う時は助けてくれますよ」

「むぅー!」


 アイリスは気にしていない様子でミネアを宥める。その様子にミネアはほっぺを膨らませていた。

 いつまでも見ていられる様な癒される空間だな、と思いながら二人のやりとりを見ていた。


 こんなにのほほんとしている状態だったが、俺が加わらなくても楽に決勝まで行くことができた。


「さあいよいよ決勝戦! 対戦カードはこの二組だー!」


  実況の声で俺たちともう一人のチームは、向かう合う様に同時に出てくる。

 観客の熱気は最高潮だ。なんだか胸が熱くなる感じがする。


「まだ男の強さは謎⁉︎ 女二人で勝ち上がってきた新進気鋭のダークホース。ユグドラシル!」


 そんな紹介を受けると一回戦とは比べ物にならない歓声が上がった。


「対するチームは前回準優勝! チーム雷光! その強さとバカさ誰もが知っている!男二人女一人のバランスが取れたチームだ!!」

「「誰がバガだ!!」」


 実況にいちゃもんをつける二人の声が飛んでくる。


「もう、そんな事はいいからちゃんとやりましょう」

「そんな事だと……」

「我々は賢いのだがな……」

「そう言うところよ。勝ったら賢いって認めてあげるから、ちゃんとやりましょう」

「任せとけ!」

「サポートはよろしくだぞ」


 前の方でそんなやりとりが聞こえてくる。

 その声と足音がだんだん近づいてくる。

 金髪のトゲトゲ頭の男性が一人、青髪のオールバックの男性が一人、黒髪のロング女性が一人の三人だった。


「君たちが決勝の相手か。よろしくな」

「よろしくお願いします」


 金髪の人が手を差し伸べてきたので、俺も手を出して応える。

 礼儀正しそうな人でよかった。見た目がちょっと怖かったら警戒してたけど。


「では二組の挨拶も済んだところで! 早速試合開始だーー!」


 実況と鐘の音がコロシアム内に響き渡る。


 相手の戦法は近距離二人にサポート二人か……。今回ちょっと厳しいかもしれないな。

 そう思っている矢先、ミネアが青髪と戦っていた。

 青髪の武器は大剣。機動力ではミネアが勝っているため有利かも知れないが……。


「くっ……。はぁぁ!」

「バスターストーム!」


 ミネアが相手の懐に入り込もうとすると、大剣を振り回して風を起こしてきた。


「中々、やるなぁ。そこのお嬢さん」

「そっちもね」


 苦戦はしていたが、なんだか楽しそうだった。今のところは大丈夫だろう。


 問題はアイリスの方だ。


 元々攻撃魔法が得意ではないため、魔法使いの一対一は部が悪い。


『我が求めるは炎の奇跡、赤の宝玉、ファイ——くっ……」

『我が求めるは水の奇跡、ウォーターボール」


 それに加えて相手の魔法使いは速攻の攻撃魔法で圧倒している。

 相手は詠唱省略という高等テクニックを持っている。

 完璧に防戦一方だ。


 あともう一人は……やはり


 真後ろから飛んできた蹴りを一歩前に出てかわす。


「やはり君はやり手の様だな」


 最後の一人、金髪の男はこちらに向かってきていた。


「どうして戦わない」

「ミネアとアイリス、その二人で優勝できると思っていたからな」


 俺の言葉を聞いた金髪は笑い出した。


「フハハっ! それは甘いぞ。確かに二人は強い。それは認めよう。しかし俺たち雷光には勝てんぞ」

「まだ様子を見るつもりさ」


 金髪に言われたことは確かに的を得ている。

 アイリスはさっきよりも、危なくなっているし、ミネアもドンドンと、押されていっている状況だ。


「その余裕、いつまで続くかな」


 金髪はニヤリと笑って、そこからは俺と同じ様に行く末を見守った。



 どんどんと時間が経っていくにつれて、こちらが不利になっていった。


「もう、魔力切れ……です……」


 まずアイリスが魔力切れで倒れた。


「ふう、あの子結構手強かったわ。詠唱省略しなかったら負けてたかも」


 そう言いながらも、アイリスを倒した黒髪の人は至って爽やかな様子だった。


「はぁぁー!」


 ミネアがまた懐に入り込む。


「おっと、もう次は本気で行くぜ。バスターブレード!」

「えっ……!」


 ミネアの方も集中力が切れてきたのか、いつもなら避けれていたであろう攻撃が当たり、会場の奥まで飛ばされた。


「これでお前一人だな」


 金髪の男が話しかけてくる。


「そうだな」

「今なら降参できるぞ」

「絶対にしないさ」


 金髪は俺の言葉を聞くと笑い出した。前に見た笑いとは違う楽しそうな笑いだった。


「お前面白い奴だな。この大会が終わっても仲良くしたいものだ」

「なら一つ条件を出してもいいか?」

「なんでも言ってみろ」


 俺は了承の言葉が聞こえた途端口元が上がるのを感じた。


「俺が勝ったら俺たちのギルドに入ってもらう。俺が負けたら何してもいい」

「……いいぞ。その条件受けようじゃないか」


 少し迷った様子を見せていたが、金髪の男は了承した。


 それから少しして三人とも近くに集まった。


「それじゃあこれで準備万端だな」

「いつでもかかってきてもいいぞ」

「それじゃあ遠慮なく」


 男二人にの言葉を聞くと俺は、三人に向かって走り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る