大会一回戦

 場外で少し揉め事があった後は、何事もなく大会が始まった。

 対戦の順番は呼ばれた時に初めて分かるらしいので、控え室の様なところで待機する事になっている。


「チームユグドラシルの人はいますか?」


 少し待っていると、メモ帳の様なものを持った人が俺たちを呼ぶ声が聞こえた。


「ここにいます」

「出番ですので、準備をお願いします」

「分かりました」


 案内の人に準備の場所を教えてもらい、そこに移動する。

 そこには武器が置いてあったり、防具が置いてあったりと、先頭に必要なものが揃えられていた。


「じゃあ、さっき言ったこと忘れないでくれよな」

「本当に危なくなったら助けてよね。一番の目的があるんだから」

「本当ですよ」

「それは約束するさ」


 特にやることも無かったので、すぐに準備が終わった。したのは少しの作戦会議程度だ。


 それの少し後会場で大きな歓声と共に、俺たちのチームの名前が呼ばれた。

 その合図と共にコロシアムの戦闘場に中に入る。

 戦闘場に入った時にミネアの武器には魔法がかけられた。一時的に刃の部分がなくなる魔法だ。

 それで謝って人を殺す心配もなくなる。


「男一人の珍しいパーティーの登場だ!! チームユグドラシル!」


 観客席は何階にも続いていた。あまりに歓声が大きいためビックリしたが、その声に応対する様に手を振る。


 その後、もう一人のチームも入ってくる。


「去年、五位入賞を果たした優勝候補のチーム。紅蓮だ!!」


 俺たちが出てきた時よりも、数倍大きな歓声がコロシアム内で響き渡る。

 そのチームの中の一人は見覚えがある。


「あ、さっきの」

「テメェは!!」


 さっきめんどくさく絡んできた男だった。

 向こうも気づいた様で、叫びながら睨んでくる。

 あいつで五位になれるのか。確か参加者は百人は有に超えていたはずだったのだが……。


「では早速勝負開始です!」


 実況の声と共に大きな鐘の音が鳴り響いた。


 勝負の内容は至ってシンプルな物だ。

 勝利条件は相手の降参か、戦闘不能になるかだ。

 そして当たり前だが、相手を殺したら反則負け。しかし、それ以外は何をしても良いと言う、ルールがほとんどない決闘だった。


 早速あの男が迫ってくる。

 近距離要員が始まりと共に、くるのは予想通りだった。


 後ろでは詠唱をしている魔道士二人の姿がある。


 その一方でミネアとアイリスは、


「えっ、も、もう始まったの?」

「ミネアさん。急がないと!」


 まだ何にも準備ができていない状況だった。何をしてるんだか。

 しかしすぐに状況を理解すると、雰囲気が変わった。


 ミネアは今までやってきた魔力捜査を駆使して、動き出した。

 アイリスの方も魔法を使ってミネアを強化する。初めてにしては良い方だろう。


 そんなふうに眺めていると横から殺気が飛んできた。


「おっと……」

「何かぼーっとしてんだよ! オラっ!」


 俺に拳を向けてくる男。動きは遅いし、魔力操作も点でダメ。予想通りザコだな。

 俺が簡単に避けていると余計に乱雑に拳を放ってくる。


「俺たちの作戦を一つ教えてやる」

「あん?」

「俺は戦わない。危なくなったら手伝う程度。だから俺に構わない方がいいぞ」


 俺たちの作戦を一つ教えてやった。バレたところで関係ないから全然教えることができる。


「ああん! 何言ってんだよ!」

「ほら」


 俺が指を指すとそのすぐ近くにミネアの姿があった。


「もう。教えないでよ! せっかくやれたのに」

「これがあったら俺の助けありみたいになるだろ?」

「こんな下衆なところあるなんて意外だよ本当に! 終わったらちゃんと、言うこと聞いてもらうからね」


 ダァン!


 最後の一文字と共にミネアは駆けていった。

 さあどこまでミネアができる様になったか見せてもらうとするか。


 俺は高みの見物状態で、戦いの行く末を見守った。

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