ゼクト帝国


フェルナンド王国の街を離れて向かったのは、隣国のゼクト帝国の帝都だった。

 もちろん移動はマスターの転移魔法だ。


 ゼクト帝国は世界最高峰の軍事力を誇っている。その強さの秘訣となっているのは完全実力主義だ。

 実力さえあれば平民からでも王になれるという程極端なものだ。

 フェルナンド王国とは真逆の体制で国を動かしている。

 そのせいか、フェルナンド王国よりもゼクト帝国はとても活気があった。


「凄いね! こんなに活気がいいとなんだか楽しくなっちゃうよ」


 ミネアは身を輝かせながら辺りを見渡していた。まるで都会に出てきたばかりの田舎の人のようになっている。

 しかし、


「そうだな。フェルナンドもこれくらい賑やかになればいいのに」


 そういう俺もソワソワと辺りを見渡していた。違う国に来たのは初めてだから余計に。


「…………」


 アイリスさんは言葉を失いながら周りを見渡していた。

 いきなり知らないところに連れてこられた子犬のようだった。


 そんな俺たちを現実に連れ戻すようにマスターは手を叩いた。マスターは少女姿では無く、大人びたいつものエルフ姿になっていた。


「早くギルドに向かうぞ。儂はゆっくりクッキーでも食べたいんじゃ」

「マスター。その姿のままでいいんですか?」


 向こうにいた時はいつも通りの少女の姿だったのに、いつの間に変わったんだろう。


「ここは実力第一だからのう。どっちでも大して変わらんわい」


 マスターにそう言われて改めて周りを見てみる。すると獣人にエルフ、ドワーフなどの多種多様の種族がいることに気がついた。


「なるほど」


 俺は納得して頷いた。


「そういう訳じゃ。そんな事はいいから早くギルドに向かうぞ」

「「「はい」」」


 俺たちは観光をしたいという気持ちを抑えて、マスターの後ろについていった。



「ここが新しいギルドなのじゃ」


 そう言って指で示したのは、貴族の屋敷の様に大きい家だった。


「よくこんなの買えましたね」

「まぁ、儂にも色々あるんじゃよ」


 俺の言葉を流してロイズさんは中に入っていった。その後について行くように、俺たちも新しいギルドの中へと入った。


「うわー……。広い! 広いよー!」

「本当にすごいですね……」


 中に入るとミネアとアイリスは大騒ぎで中の様子を見ていた。


 大騒ぎと言っても、ミネアは大きな声を出したり、動き回ったりしている様子だった。

 それに対してアイリスは声もほとんど出さずに、ただただ目をキラキラさせて辺りを見渡している様子だった。


「やっぱりお主は貴族じゃからそんな驚きもないのかのう?」

「いやいや、貴族といってもここまで凄い家なんて、本当に一握りの家ですよ」

「なら良かったわい」


 安心した様にマスターは頷いた。

 それにしても俺が貴族だって事マスターに言ってたっけ……。


 少し考えていると、その話聞いていたアイリスが、びっくりした様に話しかけてくる。


「マリウスさんって貴族なんですか⁉︎」

「まぁ、一応ね。追い出されたから今はそう言い難いけど」

「えっ! どうしてですか?」

「えっとそれは……」


 前にミネアにした様な説明をアイリスにもする。


「それは大変でしたね……」


 やはりこんな反応になる。

 確かに大変だったけど、ぶっちゃけ今の生活の方が楽しいし、良いんだけどな。


 その後一段落着くとマスターは話し始めた。


「今日からこのゼクト帝国で新しい生活が始まる訳じゃが、その際にお前たちにクエストを与えるのじゃ」

「「「クエスト?」」」

「ああ。それでそのクエスト内容じゃが——」


 マスターはまるで前から決めていたことの様に、スラスラと言葉をつなげていった。




***




「はぁー、まさかクエストが一人ギルドに入る人物を見つけてこいとは……」

「しかも一週間以内になんて流石に厳しいよね……」


 始まったばかりなのに、早くも俺とミネアは諦めかけていた。

 それは仕方がないと思う。なぜならこの国は実力が第一だ。実績もないギルドに入ってくれる人が居るなんて思わない。


「でも、失敗したらお仕置きじゃぞって言ってましたし」

「…………」


 アイリスの言葉に分かりやすく体を硬直させるミネア。


「もうーアイリス! 嫌なこと思い出させないでよー」

「そんなにきついんですか……」

「それはもう……ね」


 アイリスの問いにミネアは思い出す様に空を見上げる。その顔を今から死んでも構わないという様な、顔だった。


(本当に何されたんだ……)


 少し気になったものの、ミネアがここまでなるのだから失敗は出来ないと、気合を入れた。


 その時に足元に一枚の紙が落ちている事に気がついた。


「なんだこれ……」

「何でしょう?」


 落ち込んでいるミネアを他所に二人で紙を見てみる。


『毎年恒例! 魔術大会! 我こそは一番強いと自信のある方は是非参加を!』


 と大きく書かれており、その下には注意事項などが書かれていた。

 そして


「優勝賞金100金貨ですよ!」

「えっ⁉︎」


 アイリスの言葉に思わず耳を疑う。

 自分でその紙を見てみても間違いなくそう書いてある。


「明日にあるらしいな。当日参加もできるみたいだ……」

「それ出てみませんか? 優勝すればお金だけじゃなくて世界樹ユグドラシルがゼクト帝国に広がると思うんです!」

「……それは名案だ!」

「ひゃっ!」


 アイリスの提案に俺は思わずアイリスの肩を持って、肯定する。

 肩を触られたためかびっくりした様に肩を震わせる。


「ああ、ごめん! ちょっと取り乱した」

「いえ全然大丈夫ですよ。こちらこそなんかごめんなさい」


 完全にこっちが悪いのにアイリスは何故か慌てた様に謝ってくる。

 良い子だなそう思いながらその様子を見ていた。


「じゃあこれに出るか」

「そうですね……。三人一組で出れるらしいですよ」

「じゃあ俺、ミネア、アイリスでちょうどだな」

「ですね」


 ミネアが呆けている間、俺とアイリスで話がまとまった。


「ミネアー。そろそろ戻って来いー」

「……えっ! ああ、ごめんごめん。それで何かいい方法はあった?」

「そうなんですよ!」


 アイリスがミネアに大会の事について説明すると、ミネアは子供の様にはしゃいで喜んでいた。

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