出発の日
次の日、俺たちはこの街から出る準備をしていた。
「ミネアはまだ終わらないのか?」
「逆に朝早いのにどうしてマリウスは終わってるの!」
「昨日のうちに大体の事は終わらせてたからな。それが普通だと思ったんだけど」
ミネアがぐっすり寝ていた昨夜に、ほとんどの作業を終わらせておいた。
もちろん今のミネアみたいになるのは予想がついていたからだ。
「マリウスも手伝ってー!」
「はー、しょうがないな」
ミネアに泣きそうな声でお願いされたので、仕方なく立ち上がった。
二人で準備をしたため思った以上に早く終わらすことが出来た。
「いやー。助かったよ。ありがとね」
「次からは気をつけるんだぞ」
「うん! 気をつけるよ!」
こっちを向いて微笑みながら頷いた。
しかし、短期間しか関わっていない俺でもわかる。その時になったら絶対忘れてるんだろうな。
そう思ったが機嫌を損ねても嫌なので、黙っておく。
準備が終わるとマスターの元へと向かった。ギルドの前だった為マスターは人間の姿に変身していた。もちろん幼い姿だ。
「マスター準備できました」
「いつでも出発できるよー!」
「やっときたか。しかしまだ出発では無いからの」
「「えっ?」」
マスターの何気ない言葉に俺たちは驚いた。
「どう言う事ですか?」
「まぁ、直ぐに分かるじゃろ」
そう言われてその場で何分か待っていると、こちらに走ってくる人影が見えた。
(前にもう一人いるって言ってたしその人かな?)
そう思って変な風に思われない様に気を引き締めて待っていると、少しずつ姿だが分かりだしてきた。
幼い容姿でキラキラと輝くシルバーの髪。
「初めまして今日からここ世界樹に入らせていただくことになりました! アイリス・リーミルです!」
「えっ……!?」
そこに現れた人物は、昨日男たちから助けた店員さんだった。
何度目を擦っても、まばたきしても昨日の店員さんだった。
「ど、どうして……こんなところに……⁉︎」
驚きすぎてちゃんと声を発せれなかった。
「元々魔道士ギルドには興味があったんですよ。でも中々きっかけが無くて……。そんな時にあなた——マリウスさんが現れてくれたから」
「…………」
急すぎて話が掴めていない。
たった一度助けただけでこのギルドに入ろうと思うものなのか。今日この街から離れると言う事も知っているはずなのに。
俺が混乱して頭を抱えていると、ミネアはいつも通りのテンションで話しかけていた。
「ねえねえ、どうして魔道士ギルドに入ろうって思ってたの?」
二人は会話をしながら笑い合っていた。仲良くなるのが早いな。
落ち着いてきたので俺も話に混ざった。
「本当にいいの? この街を離れることになるんだよ?」
「はい! その覚悟はもう出来てます。店の人たちにも背中を押されたので」
アイリスは、拳を掲げながら自信満々に答える。
「まぁそれなら良いんだけど」
別にギルドに入ってくれると言うなら止める理由もないだろう。
一通りの質問を終えると、アイリスは背筋を伸ばしてマスターの方を向いた。
「戦闘は苦手で主にサポート中心ですが、よろしくお願いします!」
そう勢いよく頭を下げた。
短いスカートを履いていたためその勢いでスカートが捲れそうになったので目を逸らす。
黄色のスカートの下に一瞬、紫色のものが見えた様な気がした。意外と大人——いやいや、気のせいだろう。
そんな馬鹿な事を考えていると、次にアイリスはこちらを向いて頭を下げてきた。
「よろしくお願いします!」
「うん! よろしくー」
「宜しくアイリス」
「はい。マリウスさん、ミネアさん」
こうしてアイリスがギルドに入った。その時にみんなとお揃いのペンダントをもらっていた。
アイリスさんのには銀色の魔石がついていた
「それじゃあこれで準備は整ったのう」
マスターは手をパンパンと叩いて、話し始めた。
「もう一人の人っていないんですか?」
俺は気になっていた事を訊いてみる。
「ああ、あいつはのう……。今はいいじゃろ」
「だね……」
マスターもミネアもほぼ同時に目を逸らす。どうしてだ?
「もしかしてめちゃくちゃ弱いとかですか?」
「それは無いじゃろうな。この国でも余裕でトップに立てる実力じゃ。儂とお主で本気でやっても勝てるかどうか……」
「はっ?」
そんな事があるのだろうか。自惚れと思われるかもしれないが、俺はまだ強い方だ。
それに加えてマスターなんて街一つなんて滅ぼせてもおかしく無いくらいの強さは持っているはず……。
それを凌駕する程とは……。
「そんな人ならギルドに戻ってきて欲しいんじゃ無いですか?」
言葉を失っている俺の代わりに、横で聞いていたアイリスが問いかける。
「強いのは確かなんだけど……。そのなんて言ったらいいのかな……」
ミネアが頭を悩ませる素振りを見せる。
「変人」
ミネアが考えている横でマスターが一言そう呟く。
「そう変人。悪い人じゃ無いんだけど」
「色々大変じゃよ」
今までに何かがあった様な顔を見せる。その時のことを思い出しているのだろう。ミネアは冷や汗をかいてきている。
マスターやミネアをここまで慌てさせるなんてどんな人物なんだろうか。
「まぁそれに今は最高難易度のクエストに行ってるんじゃ。帰ってくるのはまだまだ先じゃろ」
マスターは呟くようにそう答える。
「そうなんですね」
どんな人物かきになるのであって見たい気持ちはあるが、クエストならしょうがないだろう。
「まぁそう言うわけじゃ。それじゃあ改めて」
マスターはコホンと声を整えた後、
「出発じゃー!」
「「「おおーー!」」」
マスターの掛け声と共に俺たちは大きな声を上げた。
これがギルド
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