ミネアの特訓と最後の街
パーティーから数日後。
「魔力の流れを感じるんだ。体全体に魔力が通る様な感覚で」
約束通り俺はミネアに魔法の使い方を教えていた。
「ミネアはまず基本的なことから確実にやっていかないとな」
「う、うん。それで何すればいい?」
「まずはこれ」
そう言って俺は一つの袋を取り出した。その袋の中には魔石が十個ほど入っている。
「これは魔石……だよね。これでどうするの?」
「これに魔力を込める特訓だ。魔力量は問題ないだろうから、魔力の流れを感じることができたら強い魔法が使える筈だ」
「へー……」
納得してなさそうな顔でミネアは頷く。
まぁ取り敢えずやらせてみてから考えるか。
「まあ、これに魔力を込めると……ほらこんな風に光るから、それを一時間持続させるところからやってみるといい」
俺は一つの魔石を手に取り実演してみせた。赤い魔石は一瞬震えると発光し始める。
「おおー! 私もやってみるよ!」
「頑張れー」
後は見守ることしか出来ないから適当に応援をする。
三十分後。
「……っはぁー……。もう駄目だ」
座って魔力を込めていたミネアは、地面に寝転がる様に倒れた。もちろん魔力切れではない。
ただほとんど使わない筋肉を使った様なものなのだ。体に支障が来ないわけがない。
「初めはそんなものだよ。それを繰り返していけば魔力の使い方を覚えるから」
「あはは……。でもそんな感じはするよ。これから毎日頑張るね」
「えっ? 今日までに一時間は通せれる様になってもらはないとな。最終的には片手間でもできる様にしてもらわないとだから」
基礎が出来ればいろんな応用ができる様になる。出来るだけ早く慣れてもらわないと。
そう思って放った言葉にミネアは、顔を青くして口をパクパクさせていた。
「嘘だよね……。私死んじゃうってー!」
「大丈夫だ。ミネアは魔力量が多いからよっぽどのことがない限り死なない」
ミネアが大声で叫んでいたのを宥める。しかし、
「そういう問題じゃないよー! 楽しくないし……」
変わらず不機嫌そうな素振りを見せた。
(うーん……。無理にやらせても意味ないしな。——なら!)
少し頭を捻って考えていると、一つの案が出てきた。
「毎日二回、朝と夜にやるっていうのはどうだ?」
「それならまぁ……」
ミネアは渋々ながらも頷いてくれた。
「じゃあ今はもう終わっていいんだよね」
「ああ。でもまた夜にやるんだぞ」
「分かってるよ」
子供の様にはしゃいでいる様子を見てなんだか安心した。
「それじゃあマリウス! 行こ!」
「ちょっ⁉︎」
元気になったミネアに手を引かれてどこかに連れて行かれた。
「マスターが明日にこの街を出るって言ってたから今日はこの街を楽しもうよ」
「そんなの聞いてないぞ?」
今日出るなんて流石に急すぎる。もっと事前に言ってくれてもよかったのに。
「私も今日聞いたんだよね。決まったものはしょうがないよ。残り少ないしこの街を楽しも!」
まぁ、マスターの勝手さは、今に始まった事では無いし納得するしかないよな。
そう思いながらミネアについて行った。
「ここは私が一番お気に入りの食堂なの」
「へー……」
着いたのは街の食堂だった。中に入ってみると、広くこそないが、風情のあるいい雰囲気の店だった。
店員さんに席を案内してもらって、メニューに目をやる。
「結構安いんだな」
「うん。庶民に寄り添うが第一にしてる店だから出来るだけ安くしてくれてるんだよ」
「なるほど。良い店だな」
注文が決まるとミネアは「すいませーん」と店員さんを呼んでいた。
「ご注文は?」
「私はハンバーグ定食で」
「俺は日替わり定食を」
「かしこまりました。——ハンバーグと日替わり一つずつ!」
注文を終えると出されている水を飲んで一息ついた。
「ここは良い店だな。店の雰囲気も良いし、店員の愛想も良い」
「だよね。それに味もすっごく美味しいよ」
「それは楽しみだな」
元々あった期待がミネアの言葉により一層膨らむ。 料理をワクワクしながら待っていると扉を激しく開ける音が聞こえた。
そこから三人の男たちが入ってきた。ガラが悪そうで、いかにも裏路地に居そうな男たちだった。
「おーい、早く案内しろよ」
「ここの店はこんなにも対応が悪いのかよ」
「お、お客様。前に他のお客様がいるので並んで頂けると助かるのですが……」
(小柄なのに柄の悪そうな人らにちゃんと言ってるなんて偉いな……)
こんな迷惑な客が来ても、丁寧に接客する店員さんを尊敬の眼差しで見ていた。
「ああん? 何言ってんだお前?」
「大変申し訳ございません!」
店員さんは頭を下げて謝っていた。流石に腹が立ってきたので、追い出してやろうかとも思ったが、思い留まる。
(そんな事したら店の迷惑になるかもしれない)
「マリウス……」
ミネアも同じ気持ちなのだろう。どうすれば良いのかわからずその場で座ったままだった。
「……お待たせしました。ハンバーグ定食と日替わり定食です」
こんな状況ながらも料理が届いた。
料理はとても美味しそうだ。しかし、あんな奴らがいたら飯が不味くなる。
そんな周りの気持ちなどは気にせず男たちはまだ店員さんにいちゃもんをつけていた。
「どうしても無理って言うなら何か別の事で時間を潰してもらわないとな……。例えば体とかを使って。グヘヘ」
「や、やめてください……」
男たちが気持ち悪い笑みを浮かべて店員さんを舐め回す様に見ていた。
男たちの対応に回ったのが若く可愛い人だった為、余計にそんな事を言ってきているのだろう。
その瞬間プチッと何かが切れる様な音が、頭の中で響いた。
まだ俺たちの隣にいた料理を運んできた店員さんに話しかけた。
「あいつらを追い出したら店側に何か悪い事とかって起きますかね?」
「……えっ? ——ああ、そうですね。怪我をしていなかったら大丈夫だと思いますが、お客様にそんな事してもらうわけには——」
「大丈夫です。せっかくの料理は美味しく食べたいですから」
一言礼を言った後、俺は男たちと店員さんの間に割り込む様に入って行った。
店員さんは涙目で今にも泣き出しそうな雰囲気だった。
「なんだよお前」
「何者でもないよ」
俺はニコッと笑うと小さく『ダークボミット』と呟いた。その直後男たちはお腹を押さえ出した。
「いてぇ……。どうなってやがる」
「腹が息出来ないくらい痛い……」
「…………」
昔に暇潰しで覚えた相手に腹痛を与える魔法だ。意外と役に立つな。これなら怪我も無いし。
男たちは走って店を出て行った。近くのトイレを探しに行ったのだろう。
その背中を見送ると「ふう」と一息ついた。すると、
「良くやったぞ! 兄ちゃん」
「本当にありがとうね」
などと歓声が上がった。急に照れ臭くなったが、いつも通りの様子で口を開いた。
「いえいえ、自分は何もして無いですよ。あいつらが勝手に逃げて行っただけですから」
こんな当たり前の事で褒められても恥ずかしいだけなので、しらばっくれる事にした。
しかしその言葉を信じる人は誰一人として居らず、少しの間歓声が鳴り止まなかった。
それもひとしきり終わって席に戻ろうとすると、店員さんに引き留められた。先ほどまで男たちに絡まれていた店員さんだった。
「本当にありがとうございます!」
「自分は何もやって無いですよ」
「何か隠す理由があるのは分かっています。それでもお礼が言いたくて」
まぁ皆んなが皆んな俺が男たちを追っ払ったて言ってるし店員さんもそう思うだろう。
「日を改めてお礼をしたいと思ってます。出来れば名前を教えてくださいませんか?」
瞳をうるうるさせて訊いてくる。なんだか容姿が幼い事も相待って、子犬みたいで守ってあげたくなるような人だな。
そう思いながらも答える。
「俺はマリウス」
「マリウスさんですね」
「うん。でも、お礼はいいよ。気持ちだけ受け取っておくよ」
「しかし——」
「明日になったら俺はこの街から居なくなるし」
店員さんの言葉に被せるように言葉を繋げた。
「もしかして世界樹ユグドラシルの人ですか?」
「あ、ああ。そうだよ」
ギルドに入っていると言うのがバレているのは驚いたが、隠す事でも無いので肯定する。
「なら仕方ないですね。またいつか」
「ああ」
「今日はありがとうございました!」
最後にもう一度深々と頭を下げながらお礼を言ってきた。
そして厨房に向かおうとして——転んだ。
しかしすぐに立ち上がると耳を赤くしながら走って行った。顔は見えなかったが、顔も真っ赤になっていただろう。
大丈夫かなと心配しながらも席に戻った。
その後ミネアに散々褒められた後ここの料理を楽しんだ。
料理はとっくに冷えていたため、もっとやっておけばよかったと恨みが溜まりながらも、パンをちぎりを口に運んだ。
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